地域協働と地域間協働の勧め
 -モデルフォレスト運動と森の駅ネットワーク-

月刊「ゆか」 平成20年7月号  小澤普照



 はじめに
 平成20年6月16日から20日まで、カナダ・アルバータ州ヒントンで、国際モデルフォレストネットワーク・グローバルフォーラムが開催されることになり、筆者は、はこのフォーラムに参加し、世界に広がるモデルフォレスト運動の最新の動きを確かめることにしている。
 本原稿の締め切りが出発前日となるため、詳しい内容は別の機会に譲ることにするが、この運動が1992年に始まり、今や世界の20ヵ国程に広まり、活発な活動を展開することになったのは何故か。
 一方、日本でも、間伐など森林の整備を本格的に進める必要があり、さらに地域材の活用など地産地消の推進や温暖化対策の徹底など森林や林業に求められる事柄がますます多くなってきている。
 このような時に当たって、森林問題解決のために、どのような運動や政策を展開すべきかということについて、率直に考えを提起し、読者の皆様のご参考に供したいと考える。
 そもそもモデルフォレスト運動は、1992年、ブラジルで開催された、国連環境開発会議(地球サミット)においてカナダ政府から提案され、この年カナダにおいて具体的な活動が開始された。その後国際的な広がりを見せ、現在では世界各地に広がっている。
 アジアでも日本(京都)をはじめ、中国、タイ、フィリピン、インドネシア、インドの各国においてモデルフォレスト運動が展開中である。
 モデルフォレスト運動は、かなり規模の大きな森林(数十万ヘクタールあるいは300万ヘクタールに及ぶ場合もある)を核として、地域を共有していると考える団体、企業、大学などがステークホルダー(利害関係者)として協働して森林や環境の維持活動などを地域ぐるみで行うもので、わが国に限らず、縦て割型の社会構造を改善して横方向の連携協力を強化する運動として注目されている。
 本稿では、先ずわが国における地域協働の事例としてモデルフォレスト運動について紹介し、さらに地域間協働への発展策について言及するともに、国際連携についての展望も行ってみたいと考える。

 1)地域協働運動
 わが国でも、既に昔から、入り会といった地域協働のシステムも見られたところであり、また近年では、行政政策として、昭和50年代の中核林業振興地域育成政策や平成3年以降の森林流域管理システムなどが出現し、期待もされたところであるが、ステークホルダー数の少なさや活動についての独自性の発揮については、改善の余地もあり、参考になる事例が待たれていたところ、京都において、平成18年、モデルフォレスト運動が本格的に始動し、森林関係では、わが国初めてといっても過言ではない地域協働運動が実現することとなった。
 発足の詳しい経緯等については、既に紹介も行って来たところでもあるので、ここでは極力最新の情報をお伝えすることとしたい。
 すなわち、京都モデルフォレスト運動は、数年の準備期間を経た後、平成18年11月、社団法人京都モデルフォレスト協会の設立を以て、画期的な地域協働運動としてスタートすることになった。ほぼ時を同じくして、府の農林水産部の中にモデルフォレスト推進室が設置され、既に先行して実施されていた府の緑の公共事業と連携して運動を展開することとなった。
 また、モデルフォレスト運動を有効に進めることを可能にする行政措置としては、府条例(京都府豊かな緑を守る条例・平成18年4月1日施行)の制定があげられる。この条例の項目の中で、注目されるものとして、公益的機能を一層高度に発揮させる必要がある区域を森林利用保全重点区域に指定し、森林利用保全計画を策定すること、重点区域で森林の利用保全活動を行う団体を登録し、その団体と森林所有者が結んだ森林利用保全協定を認定すること、これには不在村森林所有者と活動団体との協定も含まれる。さらに、森林利用保全計画に基づく取組を推進するための措置や森林利用保全協定に基づく活動への支援措置を実施も規定されている。
 このような条例整備はボランティア団体などが森林整備について協定を結び具体的な活動を展開することについて大きな後ろ盾となるものである。
 さて、その後の進展としては、平成20年3月、モデルフォレストの国際ネットワークへの正式加入が実現した。このことにより、今後世界各国、各地域に展開している30以上のモデルフォレスト間で、各種交流・連携を円滑に行うことが可能となった。
 さらに、府行政の強力なバックアップ体制を明確にする措置として、平成20年4月農林水産部にモデルフォレスト推進課が設置された。このことは、わが国の森林・環境行政の中でも画期的な措置といえよう。
 京都モデルフォレスト運動では、地域コンセンサスを尊重し、多様な森づくりから実行に取りかかっている。
 直接の実行者は、モデルフォレスト協会に加入する企業、団体等であるが、最新(平成20年5月29日現在)の各種会員登録の状況をみると、企業・団体は156、森林活動団体19、自治体27、個人160、計362となっている。
 企業・団体の正会員の一覧を参照することでお分かりのように誠に多彩な登録状況となっている。



次に現在、実行に入っている企業参加の森づくり活動等の一覧をご覧願いたい。



この一覧でわかるようにスタートして間もないモデルフォレスト運動にもかかわらず、多彩な企業・団体等による多様な森づくりが展開されており、今後数量的にも急ピッチで増加していくことが予想される。
 なお、それぞれの内容を詳しくみると、新しい動きを知ることができる。
 すなわち、企業参加とひとくくりになってはいるが、実際は、NGOや大学などとの連携が行われていることに特徴がある。
 例えば、南丹市美山町宮脇地区内の森づくりでは、三共精機株式会社及び佛教大学が、地域住民や関係団体と連携、協働して行う森林利用保全活動に対して、関係機関が積極的に協力し、モデルフォレスト運動の推進と森林の公益的機能の増進を図るため、協定を締結している。
 協定締結式も三共精機株式会社代表取締役社長 伊東一壽氏、佛教大学学長 福原髑P 氏、みやわきBilly代表 中島慎司氏、南丹市長 佐々木稔納氏、京都府知事 山田啓二氏、社団法人京都モデルフォレスト協会理事長 柏原康夫氏の各氏がそれぞれ出席して行われた。活動のフィールドとなる宮脇地区の森林は205ヘクタールとかなり広く、活動内容は広葉樹の植樹、下草刈り、針葉樹林の間伐・枝打ち等の体験、樹木調査や野鳥観察等の森林・環境学習等となっている。
 また、天王山における竹林整備などの活動では、サントリー株式会社、地元ボランティア団体、京都大学の連携による活動が行われているが、このような、産・学・民の組み合わせによる協働活動は京都モデルフォレスト運動の特徴的な動きとして捉えられる。
 いわゆる、京都流のモデルフォレスト運動を目指すという合意が運動の根底に流れていることが注目される。国際モデルフォレスト運動の中においても、京都スタイルの運動ということで、押し出していくことが、今後重要なことと考える。
 モデルフォレストにおける今後の活動としては森林づくり運動を出発点として、地産地消、温暖化防止運動の展開、さらには人材育成、国際交流など多様な運動の展開が期待されるところである。

2)地域間協働
 ある地域における協働運動の典型的なものとして、前述のモデルフォレスト運動が有効であると評価できるが、このような運動を広範囲に広げるためには、さらに新たな発想と行動が必要である。
 もちろん、モデルフォレスト運動を各地に立ち上げ展開することも一つの方法ではあるが、このためには、為政者の意志や多様なステークホルダーの自発的エネルギーの結集などが必要であり、入念な準備等も必要となる。
 そこで、もう少し実行しやすい手法も取り入れて、地域間協働なり、広範囲ネットワーク化と相俟って森林関係諸課題の解決に貢献できる方法を模索してみたい。
 筆者としては、平成4年の林野庁退職以来、森林塾活動など市民レベルでの活動を行いながら国内外における向社会的森林活動の発展を追求してきたところである。
 もちろん森林塾一つを取り上げてみても、今や全国に数多くの森林塾あるいは同傾向の活動がみられ、誠に心強く感じるのであるが、さらに、より多くの人々の共感を得る、あるいは得られそうな方策はないかと考えて来たところ、最近各地で盛んになっている「駅」ネットワークに着目するようになった。
 この辺の事情に詳しい地域交流センターの岡本守生氏が4月の森林塾例会に顔を見せたので各種の駅が盛んなのに、森の駅の話があまり聞こえて来ないのは何故かと質問したところ、森林塾代表が関心を持っているのなら、是非提案型の講演をして欲しいということになり、平成20年5月下旬、瀬戸内海クラブ(地域交流センター)の例会で、「森の駅」ネットワークについて提案講演を行った。
 内容を簡潔にまとめると、国土の三分の二が森林である。上流に行けば森林は繋がっている。下流に来るほど森林は離れる(森と人、森と森も離れる、東京の都心からは森は見えないなど)。里山は孤立し、不在村所有者は増加。地域産材や間伐材は無駄なく利用されているとは言い難い。放置された森は藪状態になり人を寄せ付けなくなる。森からの情報も伝わりにくい。全国に「森の駅」が出来、情報を共有し、問題解決に向かって協働する時が来ているのではないか。
 今や「駅」ブームと言っても良い時代である。「道の駅」、「海の駅」、「まちの駅」などかなり発展しているようである。
 ところで岡本氏の調べでは新潟・見附の森の駅や山口県美祢市の森の駅の存在など、各地に「森の駅」が存在しているとのことである。大変、素晴らしいことで、もっと増やしてネットワークが出来れば大きな動きになるのではないか。モデルフォレスト運動との関連づけも可能である。さらに、これからは、森林力を高めて、温暖化防止も促進が必要である。あるいは「もったいない精神」で循環可能な地域資源である森林資源を炭に焼き、木質ペレットや木質系エタノールなどの製造を行い、多くの人に利用してもらい、田舎を活気づける。もちろん、森や地域の産物についての森のチェーン店も楽しみがある。
「森の市場」、「森の緑陰図書館」、「森のホームセンター」、「森の保育園」、「森の工房」、「森のクリニック」、「森の測候所」などのほか、「森の宿」、「森の学校・塾」などなど発想が広がる。「森の駅」には素晴らしい未来が、夢がある。
 大略以上のような提案をしたところ、話題提供後の意見交換会において活発な意見が飛び交い、かなりの手応えが感じられた。少なくとも勉強会の継続が必要との結論になった。
 「森の駅」について考えるようになったそもそもの発端は、三年前に郷里の新潟県上越市に森林環境実践塾(炭焼塾)を開設したときに始まる。
 炭焼窯作設のための材料の買い付けに、東京を含め数軒のホームセンターに行った。
 そこで調達出来るものと出来ないものがあることがわかった。例えば耐火煉瓦は購入可能であるが、耐火モルタルの購入は難しいというようなことである。
 もちろん、小型の移動式炭焼窯やドラム缶式炭焼窯も売ってはいない。また薪割り機なども販売していないのが普通のようである。
 また、炭化の進行状況をチェックするための300℃から500℃程度の温度計も置いてないということで、「森のホームセンター」があれば便利であると思った。
 サラリーマン生活リタイア後の田舎ぐらしなどのための必要品販売などの拠点がモデルフォレストの中に存在しても良いと考えた。
 さらにネットワークということを考え合わせる「駅」というものに到達する。
 「駅」の概念には、もともとネットワークの発想が内在しているということである。
 したがってまた、「森の駅」は、田舎に限定しなくても良いと思う。
 モデルフォレスト運動のような大規模なものが、キーステーションになって、さらに、都市にも田舎にもネットワークを張り巡らせたら面白いと思う。
 数日前の休日、茨城県竜ヶ崎市の木材芸術の工房に出掛けた。埼玉大学教授の横尾哲生氏(木工芸)と炭焼鉄人の杉浦銀治氏らがタイアップした伏せ焼きによる炭焼実演と木工芸作品を燻煙でいぶして耐候性をつける実験である。埼玉大、群馬女子大の学生さんも大勢参加し賑わった。ちなみに横尾教授は木の芸術による高齢者医療やケアとアートとの融合を目指している方で、病院の一角に工房があっても良いではないかという発想である。都市部と田園の中間地帯にある横尾工房も森の駅の素質が大いにありとみた。(写真@挿入) 
 ところで今年の二月に雪の会津・三島町を訪問した。この町の特徴は齋藤茂樹町長さんを先頭に町一丸となって「会津桐の里」三島町を目指していることである。
 全国各地の桐植林が撤退する中で、ただ一つ残っても桐のことなら何でもやるというリーダーの情熱に感じて、日本政策投資銀行前総裁の小村武氏が中心となり、東京に応援団兼勉強会が存在する。小村さんから声が掛かったので筆者も微力ながらはせ参じたところである。という経緯から杉浦氏に桐炭について取材したところ、日本油桐から作られた炭は、研磨剤として最高であるとのこと。また油桐の中に良質の油を産するものがあるので有用油桐の植林も良いと思うとのこと。
 三島町はには、立派な桐の博物館がある。ここにもう一つ「森の駅」の看板を掛けていただいたらとふと思ったが、町全体が、森の駅の趣もある。このことは齋藤町長さんに考えていただく方が良いということで、実現方については誌面からお願いを申し上げておくこととしたい。(写真A挿入)
 さて、筆者も都内に「森の教室」を運営してそろそろ十年になる。「森の駅」に参加できるよう頑張って行きたいと考えている。

 3)国際連携への道・おわりに
 5月上旬に北京で森林・気候変動に関する国際フォーラムがあり、筆者は、日本の複層林造成についてプレゼンテーションを行ったところ、考え方その他について、米国からの出席者からすべて理解できたとの感想をいただいた。(写真B挿入)
 さらに、6月上旬、再度中国の山西省の奥地を訪問した。この5年間で五千ヘクタールの無償植林プロジェクトが完成したものである。植林困難地における国際連携による見事な結果に訪問者は一様に称賛の言葉を発すると聞かされた。(写真C挿入)
 間を置かず6月14日にはカナダに向かって出発することにしている。カナダ各地のモデルフォレストを訪ねての旅も四度目となるが、今回の目的は、冒頭に記述したとおり、世界各地から集まるモデルフォレスト関係者によるグローバルフォーラムへの参加である。
 これまで、三十年以上にわたり、森林や林業についての国際関係のお付き合いもしてきたが、京都モデルフォレスト運動が国際ネットワークに加入し、国際連携の中で活動が行われるようになったことは、わが国の森林や林業関係にとって、新しい階段を上ることになる。
 問題は、今回のグローバルフォーラムもそうであるが、使用言語が、英・仏・西語などとなるため日本人が、その環の中に入るためには他国の言語を使う必要が生じることである。
 しかし、このような障壁にたじろいでは国際連携はできない。筆者の体験では、われわれが他国語を学び使うことで、相手も日本語を理解しようとする傾向がみられる。
 とにかく外国語のトレーニングは欠かせない。丁度一年前、「代々木の森の教室」で全木連の藤原敬氏を事務局長にして、「森林政策を英語で語る会」(筆者流にいうと森林英語道場ということになる)が始まった。米・英・ニュージランド人も参加してくれる。トレーニングには絶好の場である。自己研鑽を志す方の参加を歓迎したい。
 最後に、今月末に、本を一冊監修して出版することにした。表題は「木と木材がわかる本」(日本実業出版社)である。樹木や木材のことを少なくともこの程度は知っていて欲しいという本である。一般書店売りである。気になる方は手にとってご覧いただきたい。
 こう書いて来ると、どうやら自分自身が、「動く小さな森の駅」になったような気がしないでもないが、エネルギーが続く限り、楽しみながら頑張ってみたいと思っている。
                                             (以上、平成20年6月11日 記)


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