「モデルフォレスト」に関すること-その発想と展開-

                林政総研理事長・京都モデルフォレスト協会顧問(京都府参与) 小澤 普照
                国民と森林 2007年・夏季 第101号掲載


はじめに −モデルフォレストとの出会い−

 何事にも出会いというものがある。
 筆者がはじめてモデルフォレストという言葉を聞いたのは、一九九二年六月ブラジル・リオで開催された、いわゆる地球サミット(リオ・サミット)の会合の場であった。
 当時の状況を少し詳しく述べると筆者は当時林野庁に在籍し、日本政府代表団の一員としてサミットに参加したが、大詰めに近づいた頃、日本政府(林野庁)主催の昼食をはさんでの会合が開かれた。
 この会合には、開催国のブラジルをはじめ先進国及び途上国の主要国森林担当幹部が参加した。
 日本側の呼びかけに森林関係諸国が応じてくれるということになったのには前年(平成三年)からの経緯があった。
 すなわち前年の七月、横浜で日本政府(林野庁)とITTO(国際熱帯木材機関・横浜所在)との共同で、世界シニアフォレスター会議が関係者の尽力によりはじめて開催された。
 この時の会合の中で、参加国から今後、日本側からの呼びかけがあれば何時でも集まる用意がある旨の発言があり、それではということで、早速その年の九月、パリで開催された世界林業大会において、日本側から呼びかけ懇談会が実現した。
 このようにして、わが国の林野行政の責任者と各国の森林・林業行政の責任者相互の交流の場が急速に進展することになった。従って、ブラジルでの会合もこの延長線上にあり、参加者の多くが相互に顔見知りということで和やかな雰囲気が感じられた。
 さて会合の席上、カナダのジャグモハン・メイニイ氏(当時カナダ森林省次官補・その後国連IPF初代事務局長)から丁度この年からカナダでモデルフォレスト運動を開始したとの報告があり、今後国際的にも拡大したいので各国の協力をお願いしたい。また日本についても是非協力を得たいとのことであった。
 日本でも丁度、森林の流域管理システムが発足し、共通性も感じられたことから賛意を表明し協力を約したのであった。

地球サミットで日本の森林政策を起立して説明する小澤普照(当時林野庁長官)及び直ぐ右手前黒っぽい
背広姿がカナダのジャグ・メィニィ氏、さらにその右手前の水色の背広が田中正則氏(当時林野庁計画課長)
撮影は、小柳好弘氏


 地球サミット終了後間もなく筆者は林野庁を退職したが、爾来、自発的な行動時間が得られるようになったため、世界各国のモデルフォレスト活動の現地訪問や国内外での関係国際会議に出席するなど、わが国においてモデルフォレスト運動が実現することについて期待を持ち続けてきたところである。
 たまたま平成一四年一二月に環境省主催の会議(環の国くらし会議)が京都で開催され、会議メンバーであった筆者が、会議の場で、はじめてお会いした山田京都府知事にモデルフォレスト運動の存在をご紹介したことが切っ掛けとなり、約四年の準備期間を経て、平成一八年一一月の京都モデルフォレスト協会の発足をもってわが国で初めてのモデルフォレスト運動が本格的に始動することになった。
 本稿では、モデルフォレスト運動の発想や、諸外国における運動の実態の紹介、京都モデルフォレスト運動が今後わが国の森林問題の解決などに貢献することへに期待しつつ記述してみたい。

一 モデルフォレストとは何か
 数年前までは、わが国でモデルフォレストについて論じる時に必ずといって良いほど共通していたことは、モデルフォレストの理念が理解しにくいということであった。
 またモデルフォレストというと、モデル森林といえばなおさらのこと、どうしてもそこに美しい森があったり、あるいは巨木林が存在したり、さらには間伐展示林があったりすることを想像する人が多いと思われる。
 もちろん、モデルフォレストの地域に素晴らしい森林が存在することは、別に不思議ではないが、モデルフォレストなるものは、別の言葉でいえば、展示林を造成することなどを主たる目的とするものではなく、「森林の持続を核とする地域ぐるみの人間と自然との共生運動である」とするのが本質に近いと考える。
 したがって、「モデルフォレスト」と呼ぶより、「モデルフォレスト運動」という方がより相応しいといえる。
また、この運動の中で展開される多様な活動は、「モデルフォレスト活動」と表現すると理解が得られ易いと思われる。
 幸い、京都モデルフォレスト運動がスタートしてからは、モデルフォレストについての理解が一歩一歩進んできたことを実感できるようにはなってきたが、しかし現在でも、「モデルフォレストとは何ですか」という質問を発したい人がかなり多いと思われるのである。
 そもそも提唱国であるカナダにおけるモデルフォレスト運動の原点は、世界が目指す持続的な森林経営の実現への具体的戦略を進めること、さらに多様でダイナミックなパートナーシップグループをもつこと、また地域のローカルな価値とニーズに応えることの三点に集約されるものであるとされている。
 付言すれば、モデルフォレスト運動とは、大規模にかつあらゆる利害関係者(ステークホルダー)のために地方の共同体の次元から国家レベルの政策立案機関まで、持続可能な森林経営あるいは、自然との共生の理念を実践行動(活動)へ具体化させていく手法であるともいえる。
したがって、その仕組みは、森林を核として地域社会が総ぐるみで参画し、森林の持続や自然との共生を実現しようということであるので、そもそも基本理念としては、「共有」という考え方があげられるのである。
 つまり森林を含むある地域を共有するという考えをもった人やグループが協働して、意志決定を行い、運動(活動)のエネルギー源(人材、資金等)を確保するため、パートナーシップを形成して事に当たる必要が生じることになる。
 ところでまた、このパートナーシップの概念というのが日本人にはやや理解しにくいようであるが、わが国でもかつて「結い」の発想や行動が広く見られたことを思い起こせば分かり易いと思われる。
 一般的に、モデルフォレストの活動範囲は、地理的条件として河川流域のように対象区域を明確に決めて行われることになるもので、したがって地域の関係者は、目標設定を行い、その達成に向かって共通意識を持って、実行することになる。
 故にモデルフォレスト運動は、討論クラブではなく活動体であるといわれる所以でもある。
 さらにまた、モデルフォレスト活動は、人々の持つ多様な価値観を持続可能な森林経営、あるいは共生という目標に反映させようとするものであるから、このことは価値観の不一致を解決する方法論としても有効であるということになる。

二 世界のモデルフォレスト運動の状況
 世界を通じてモデルフォレスト運動は、準備中を含め、二〇〇六年現在、カナダの一一個所のモデルフォレストをはじめとして、一八ヵ国、四一ヵ所となっている。
 すなわち既導入国は、カナダのほか、アルゼンチン、ブラジル、ボリビア、チリ、中国、コスタリカ、インド、インドネシア、日本、フィリピン、ロシア、スウェーデン、タイなどである。
 カナダのモデルフォレストは概して規模が大きく、アルバータ州所在のフットヒルモデルフォレストで二七五万ヘクタール、小規模といわれるものでも三〇〜四〇万ヘクタール程の規模がある。
 ところで、国際ネットワーク加入には、おおよそ一〇万ヘクタール程度の規模が目安となっていたが、最近は規模条件はやや引き下げられる傾向にある。
 またカナダの各モデルフォレストは数十あるいは百以上に及ぶ利害関係を有する団体や企業がネットワークをつくりパートナーシップを形成して協働している。利害関係団体等としては具体的には製材会社やパルプ会社をはじめとする各産業、教育、国立公園などの自然公園、先住民、ボランティアグループ、地方自治体、州政府、連邦政府などが参画している。
 森林の所有形態は、カナダでは、全体的には州有林の比重が高いが、モデルフォレストということになると、フットヒルモデルフォレストでは、州有林、国立公園、大規模企業林(州有林を長期間企業に伐採権を与えているもの)が、それぞれ三分の一程度を占めている。同じカナダでも東海岸寄りの東モントリオールモデルフォレストやファンディモデルフォレストは全体規模もややコンパクトであるが、私有林の小規模森林経営体も活動に参加している。
 筆者はこれまで、カナダに三回出かけ、モデルフォレストについては四箇所訪問した。そこで見聞したことであるが、先ずモデルフォレストの維持資金は政府資金のほか、参加団体からの拠出金によっている。これらの資金によって、森林の生態系の調査をはじめ、グリーズリーベアなどの野生獣の行動調査や渓流の水量・水質の調査、さらに生息魚類の調査なども行われている。もちろんボランティアの参加も含む活動センターがあり、自然探索歩道の標識類の整備なども進められている。インターネットのホームページによる情報提供や交流は必須の要件といっても良い。
 モデルフォレスト運動の本質は、カナダ国内においては、地域内連携及び地域間連携の推進に寄与するものであり、さらには国際的なネットワークで結ぶことに特徴がある。
このことによって国際交流が進展し、森林の持続についての共通の目標も捉えやすく、人材育成の場としても有効に機能することになる。
 カナダのモデルフォレストでは四番目(平成一五年九月)の訪問地となった、東部オンタリオのモデルフォレストでの体験では、ファーガソン森林センターにおいて、ボランティアによって設立された、三六〇エーカー(約一四六ヘクタール)の苗畑経営がある。たまたまここで林業祭が開かれており、木材のオークション(競り市)が行われていた。参加者は殆どが一般住民で主婦の参加も多く真剣に入札していた。聞いてみると日曜大工が当たり前で、購入した材は家の補修や家具の製作に使うということである。丸太は現地に移動製材機が用意されており、お好みに合わせ挽いてくれるシステムである。
 また、クイーンズ大学生物学ステーションも訪問した。日曜日であったが、湖水でバージ(はしけ船)を使っての学生実習が行われていた。学生の宿泊施設も整備され、学生のトレーニングも教室ではなく専らフィールド学習に重点を置く姿勢が読みとれた。
 次に訪問したのが、フォーチュンファームで、ここはシュガーメープル(サトウカエデ )の森でメープルシロップが生産されている。このような森は別名シュガーブッシュとも呼ばれていて、東オンタリオではシロップ生産林は八〇ヵ所ほどあるとのことで、ケベック州或いは米国でもメープルシロップの生産は盛んで、天然林では二〇〇年生の樹木でも生産可能とのこと、林内は樹液を集めるチューブが張り巡らされ、あたかも森林工場のおもむきである。二月ないし三月が適期とのことで、最近はシュガーメープルの人工林造成も進められているが、シロップ生産が可能となるのは植栽後三〇年とのことである。
 これらの訪問先はそれぞれ、モデルフォレストの会員となってネットワークを形成し、その活動は地域活性化や環境改善に貢献している。 
 また、アジア地域でもモデルフォレスト運動は活発になりつつある。
 そもそも中国、タイ、フィリピンなどのモデルフォレストは、日本政府(林野庁)がFAOを通じて立ち上げ資金の提供を行い、誕生したものである。
 さらにその後、インドネシア、インドなどでモデルフォレスト運動が発足し、現在アジアモデルフォレストネットワークが形成された。
 アジアネットワークの運営については、FAOのバンコック事務所がサポートしているほか、カナダ(オタワ)所在の国際モデルフォレストネットワーク事務局ではアジア担当者をおいて対応を行っている。
 アジアのモデルフォレスト運動については中国とフィリピンの活動現地を訪問したことがある。
 この際、中国のモデルフォレストについて紹介すると、上海市の西南方約三〇〇キロ、浙江省臨安市に所在する。
 臨安市の総面積約三一万ヘクタールのうち森林面積は二七万ヘクタールで市の全域が豊富な森林に覆われている状態である。
 パートナーシップの形成については、二八のパートナーの参加があり、これらは、林場、木材加工企業、林産物生産者、家畜飼料生産者、科学技術研究組織、大学、教育関係、農業銀行など多彩な顔ぶれとなっている。
 事務局は臨安市林業局内に置かれ五名の職員が業務に当たっている。モデルフォレストの森林面積は、一〇万ヘクタールで、そのうち中核的な森林は二万ヘクタールとなっている。
 主産物はクルミとタケノコで、このほか竹材による欧米向けフローリングや内装材生産、花卉栽培、さらにはエコ・ツーリズムなどの発展で活況を呈している。
 また、森林持続政策の一環として、複層林の経営を推進しており、構成は上層にクルミ、中層に竹、下層に茶の栽培を行う事例も見られる。
 さらに模範林家の指定により、優良経営の拡大が図られている。 

三 京都モデルフォレスト運動
 森林関係の本格的な地域協働のプロジェクトとして、わが国では、はじめてといえる、京都モデルフォレスト運動が数年の準備期間を経た後、平成一八年一一月、(社)京都モデルフォレスト協会の発足とともに本格的な活動が始まった。
 京都モデルフォレスト運動は、京都府下全域にわたって地域総ぐるみの森林持続運動を、地域における産・官・学・府民の本格的連携の下に試みようとしているところに特徴がある。
 先ず、産としては、企業による資金協力、人的協力などの各種の参加方式が考えられるが、既に天王山で地域住民グループと協働して森林づくりのプロジェクトを実行中のサントリーのほか、平成一九年度からは、予め活動場所(先ず一一個所)を提示して企業を募ったところ、オムロン、NTTドコモ、コカコーラ・ウェストホールディングス、村田製作所、全労災、ヱスペック、京セラ、シャープ、日本生命、東芝、パナソニック・フォトライティングが参加表明があったほか、トヨタがハイブリッド車の販売台数に応じた寄付を実行するなどのパートナーシップの滑り出しは順調である。
 以上の他多くの企業等がモデルフォレスト会員として参加しつつあり、今後の増加が期待される。
 学の面では、大学等がその知的集積を活かしての参加が期待されるところであるが、京都大学、京都府立大学の森林関係の学部・学科を有する伝統校はもちろんのこと、立命館大学、龍谷大学などこれまた伝統と特色のある大学、さらには各種研究機関の参加と活動が期待される。
 官については、知事を先頭に府の農林水産部局及び環境部局による新たな政策展開の推進機能の発揮と同時に振興局、林務事務所などに加えて、市町村等の地方自治体の積極的な動きが注目される。
 府民としては、NGO、NPO、各種ボランティアグループの参加のほか、有力企業の現役・OBグループによる森づくりや環境貢献活動の展開が見込まれる。
 なお、これらの運動や森づくりなどの活動を支援するための推進センターとしての役割を果たす(社)京都モデルフォレスト協会の果たす役割は重要である。
 さらに、今後、京都モデルフォレストの国際ネットワーク加入により、先進国、途上国を問わず、現に展開しているモデルフォレスト運動との連携・交流により、森林持続のための地域活動の強化・拡大はもちろん、地球温暖化防止などへの貢献も進むと考えられる。
 一方、国内においても、京都以外の地域での地域協働活動を行おうとする人々を勇気づけ、運動の展開を促進することになるであろう。
 また、次の段階として、地域間活動の連携と交流が進めば森林の持続を核とする地球環境活動の生きたモデルとして機能することになる。
 国際ネットワーク交流については、お互いの情報交流により、世界の森林関係者に共通する問題、例えば野生獣と人々との共生の方策を見いだすことについての協働も可能となるものであり、学術・文化交流、大学間の交流による研究の増進や学生の外国での体験学習など人材育成面での効果も期待できる。
 さらにまた、各地域での協働活動が進展することで、政府その他行政部門が成果を適切に評価することによって、各種の政策に反映させることが可能になる。
 ところで、京都モデルフォレスト運動は、これまで知事によるリーダーシップの発揮と関係者の努力でここまできたが、今後克服すべき課題もあろう。
 先ずパートナーシップというものを理解し、動かすことが出来るかということである。
 たとえば、行政課題として、地域材を使おうということがあるが、かけ声だけでは世の中は動いてくれない。京都であれば、京町家は、二万八千軒あるという。今、町家のリフォームがブームらしいが、このことと地域材をどうしたら結びつけれるか。また大徳寺の修復現場も訪問したことがあるが、文化財の維持に使う木も同様、地域材が好ましいと考えられるが、モデルフォレストでは、このような場合、産・官・学・府民でパートナーシップを形成して促進策や解決策を具体化することが可能である。
 また、地域活動でリーダーが不足しているという話は日本でも外国でも聞かれることであるが、人材がいないというより、人材に活躍してもらう舞台が不足しているように思われる。モデルフォレスト運動は、人・森・地域を一体的に動かす舞台装置であるということもできる。
 さて京都モデルフォレストに期待されるものは何であろうか。
 一つには、国際的な京都の知名度、また国内的にも歴史・文化とならんで京都議定書に代表される地球温暖化対策関連の知名度の上昇、もちろん森林など自然美の裏付けも十分にあることから、これらを活かした京都流のモデルフォレスト運動に注目していただきたい。

四 モデルフォレスト運動を成功に導くための条件
 モデルフォレスト運動は、森林の持続を核とする地域協働の運動であるが、森林という面から目標を定めようとすると、森を守る、森を育てる(森をつくる)、森を活かす(森を使う)、という三つの要素になるであろう。
 地域によっては、森林に限定せずに運動の幅を広げたいという意見が出てくることも考えられる。
 この場合、モデルフォレスト運動を自然と人との共生のための地域協働運動と考えるとより多くの人たちの共感が得られる可能性がある。
 しかし、いずれのモデルフォレストにおいても、あるいはあるモデルフォレストの地域内活動の一つを取り上げるにせよ、成功への近道は、地域の人達が最も関心の高い分野を把握することが必要である。
 例えば京都では、森づくりにもっとも関心が集まっているとすれば、森づくりから取りかかるのも一つの方法ではある。
 ただし、モデルフォレストというからには、単純な植林活動などではなく、地域の人たちが心から支持する、斬新な感覚のもとに未来性のあるプロジェクトを展開すべきである。
 つまり従来の「森林整備」という言葉に代表されるいささか堅い表現よりも、新鮮かつ未来性を感じさせるキーワードを創出して取り組むべきである。
 なお、森づくりを行うには実践活動の場が必要であり、現在全国的に管理不在森林や関連して境界不明森林が増加していることから、モデルフォレスト運動の中で解決策に一歩近づく活動を展開することも有益であると考える。
 また、人材活動の問題であるが、森林インストラクターはじめ、いろいろな人材を登録して活動してもらうことが重要と考える。
 一方、森活かしに重点を置きたいというモデルフォレスト運動であれば、経済活動との関連も考慮した活動を行うべきである。
 森林・林業との繋がりでいえば、バイオエタノール、木質ペレットなどバイオマスエネルギー供給に貢献可能な森づくりや供給モデル化を行うことや、「地産地消」の実践ということで地域材を使う運動との関連で、地域材認証や木材の経歴表示などをより科学的に行う手法をモデルフォレスト運動に参加する大学・研究所と連携して開発することも可能となろう。
 さらに森を守るという発想には、森や自然との共生に繋がってくるものがあると考えるが、この分野についても新たな活動を創出する方向で考えてみてはどうだろう。
 森林経営認証の普及、里山の再生、美的な森林景観の実現、森林コモンズなどのキーワードが、浮上してくる。
 ところで、モデルフォレスト運動が成功するには、地域一体感が醸成されるかどうかがポイントになる。
 ところで、最近、シカやクマなどの野生獣被害が増加しているが、人は果たしてこれらの動物と共生できるだろうか。
 この解決策を見いだすには、例えば熊について考えると、先ず「熊の行動調査が必要」、次いで、「熊は柿の実が大好物らしい」、「柿の木を地図上に表示して熊の出没との関連を明確にする」というように分析を深める。
 さらに一歩進めて、野生獣対策は「広域的に行う必要がある」、「動物を調教して共生する」、このため「ハンターの皆さんと提携してできないか」などアイデアを前進させることが大切である。
 カナダは、人と野生獣との共生が比較的うまく行われている国であり、専門家も活動しているので、このような人たちと意見交換を行うことも有効と考える。
 地域協働から国際連携までを円滑に進めるには、事務局機能が有効に働く必要がある。
 通常、モデルフォレストの事務局に求められるものは、中立性、透明性、迅速性、国際性などであろう。国際性の中には少なくとも英語によるコミュニケーション力が含まれるのはいうまでもない。

むすび
 モデルフォレストのような新しい活動を定着させるためには、従来の方法論にとらわれない発想をしていくことが重要である。
 先ず、地域の森林問題についてこれを真剣に考えている地域のステークホルダーの声をどのように集約するか。
 そもそも協働には多元主義が根底にあるともいわれているところであり、したがって、
多様な利害関係者が異なる視点や意見を持っていることを認めることが出発点となる。
 ただし、声の大きい人達だけを集めてはいけないし、困難さを乗り越えることがモデルフォレスト運動の重要性であり、困難な過程を経ることで地域に協働の機運が生まれると考えるべきであろう。
 モデルフォレスト活動の一環として、各地で開催される円卓会議、ワークショップなど実施の際に、より良い発想とより良い活動を促すために、プラス指向でブレーンストーミングを繰り返して行くのが良い。
「手入れ不足の森林を解消し、林業を活性化して、森林の持続を実現するには」
「地域総ぐるみで森をつくり、守り、活かすには」
「団塊の世代の人達に森林問題に参画してもらうには」
「温暖化防止に森林を活かすには」
「地域材の徹底利用を行うには」
「林業でゼロヱミッションを実現するには」
これらの一見難しそうな事柄について、アイデアを出し合うためにブレーンストーミングは有効と考える。他人の発言にケチをつけず、批判する代わりにアイデアを付け加えるというルールを守るだけでも良い発想が生まれると思う。
 例えば、日本の森林問題の現実分析として、「日本は森林大国である(森林率七割)」、「
一方、外材を大量に輸入している(自給率二割)」、「結果、自国の森林の荒廃を招いている」、などを起点にして、さらなる現状把握を行っていくと、山村の過疎化や林業関係者の高齢化などの言い古された言葉の裏に、「傍観者が増加し、実践者が減ってきた」という現実が浮上して来る。傍観者が増えているのは何も森林・林業の分野だけではない。
しかし、ほんとうに人はいないのであろうか。
「もうすぐサラリーマンを卒業する団塊の世代は七〇〇万人だ」、「人がいないというのは、ある種の言い訳に過ぎない」などから、「人を活かす発想が不足している」という結論に到達することもあろう。
 すなわち、ほんとうに地域で解決したい課題や、森林・環境を取り巻く諸課題にプラス思考で取り組み、皆が協力しあって、新しい発想で解決していく仕組みがモデルフォレストの活動に他ならない。
 なお郷里の新潟県上越で炭焼き塾(森林環境実践塾)を開いて2年経過したが、炭焼き窯一つ作るにしても、材料購入のため地域のホームセンターで総てを満たすことにはならない。
 モデルフォレスト運動の一環として、「森の駅」や「森のホームセンター」があれば便利と思うのは筆者のみではあるまい。
 モデルフォレスト成功の基本は、地域の共感が得られる目標を持つと共に自然との共生を目指す人々に対して門戸を開いて行くことにあると考える。
(二〇〇七年六月一〇日 記)


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