国際協力の共通課題


少し古い話から始めることをお許し願いたい。平成3(1991)9月世界林業大会がパリで開催された。翌年の地球サミット(ブラジル開催)を控え、我が国は、近藤元次農林水産大臣を先頭に参加し、東久雄農林水産審議官(当時)及び筆者(当時林野庁長官)らが随行した。

その際、日仏の農林大臣の会見があり、筆者も陪席したが、仏国大臣の発言が印象に残った。すなわち仏国は食糧自給率100%の国であるにもかかわらず米国からの農産物輸入の要請が強く、対応する立場にある農林大臣はフランスでは最も困難ポストとされているとの言葉であった。

今日本では、食糧自給率が低すぎないかとの議論があり、木材についても同様の問題がある。

さて、ここで考えるべきことは何か。仏国の例に見るように自給率が高ければ高いなりに苦労がある。つまり、一つの問題を乗り越えても次の問題が起きる。そこで問われるのは先見性であり、幅のある対応力ということになる。

ところで、世の中には避けて通れない問題というものがあり、国際協力の分野でも同様である。すなわち、CO2削減問題、水問題、食糧問題、貧困削減、違法伐採の駆逐など直面する課題は多い。

これらの解決策を追及していくと、地球益か国益かという問題に突き当たる。また国内問題と国際問題いずれに力点を置くべきかということも古くて新しい問題である。

一体、繁栄と貧困のはざまで先進国、開発途上国が真に何をなすべきかなどと考えていたところ、リーマンショックが起き、国際的な経済問題に拡大する事態となった。傍観すれば地球社会に手痛い打撃を与える恐れがある。米国・西欧発の問題であるとしても、国際社会全体で取り組むことで解決しなければならない。

諸課題を解決するのは、結局人間である。したがって、国際協力の前進を図るには、内外における人材育成の加速こそが各国共通かつ喫緊の課題である。

最近、来日のインドネシア人介護士の日本語習得問題が話題になったりしているが、本質論からやや外れているように思えてならない。

報道によれば、日本での資格取得に際し、完璧な日本語の習得が要求されているような印象を受けるが、本質論は将来彼女らが介護や医療面で国際的に活躍できるよう、相応しいトレーニングを積み、これが生かされるようサポートすることこそが重要である。地球益、国益を同時的に実現し得るモデル的事例と考えたい。

人間力発揮の比重が高いと目される農林業協力の一層の発展を願ってやまない。

(「国際農林業協力」Vol.31 2008 No.4 平成21年3月31日、海外林業コンサルタンツ協会会長小澤普照記)


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