低炭素・循環型社会の実現に向けての森林整備論・小澤普照


低炭素・循環型社会の実現に向けての森林整備の重要性 
    
 

月刊「ゆか」平成21年(2009年)7月号掲載 小澤 普照

はじめに

郷里の上越市に森林環境実践塾(主としてスギ間伐材及び孟宗竹による炭焼き活動)を開いて早くも五年目を迎えた。

今年の五月の連休も屋敷林の竹林整備と竹炭焼きで過ごした。

実は、四月に某テレビ会社から、最近の竹林が増えて困るとの声を背景にしたテレビ番組を企画しているが、コメンテーターをお願いしたいと人を介して依頼があり、一旦引き受けたが、その後立ち消えになった。

高齢者であっても、竹林の整備は、やる気があれば何とかなる作業である。
月に一度くらいは、家族ともども田舎に出かけ、地域の友人達とも合流しての低炭素社会型のライフスタイル追求すること五年目にして、地元の農業高校や中学校の敷地に炭焼き窯が作られ、自然体でのネットワークが出来てきた。

農業高校の場合は、全校を挙げてエコスクールへの脱皮を目指すことになり、昨年からは文部科学省の指定校となって、全校8コースの生徒全員が「炭」をテーマに「MOTTAINAI(もったいない)プロジェクト」に参加している。農作物収量と炭の関係、農業土木でコンクリートに粉炭を混ぜたらどうなるか、あるいは畜産と炭、料理と炭、森林と炭の関係など、あらゆるものが研究対象になる。

中学校の場合は、シンボルの校庭の松の樹勢が衰えて来たことがきっかけとなり、樹木医とも相談し、炭による樹勢回復を図ることとし、生徒の参加による炭焼き活動が始まったところである。

もちろん、市域は広いので、中山間地帯では従来から炭焼きも行われている。

さて、森林整備に話を戻すと僅か数百坪の屋敷林としてのスギ林や竹林は、林野庁の行政対象森林にはなり難いものであろうが、間伐材の利用問題や残材の処理などについては規模の大小はあっても共通点が多いと考えており、今後も実践塾活動に取り組んで行く積もりである。

本稿では、以下、低炭素・循環型社会実現と森林政策等との関係に視点をおいて述べてみたい。

1) 白書に見る低炭素社会対策

現在わが国の政策視点の中で、低炭素社会を目指すための諸論義や諸政策がいろいろな場面で競われている。

森林政策の場では、低炭素社会との関連が高いことから、本年5月に決定の平成20年度『森林・林業白書』において、「低炭素社会を創る森林」が特集テーマとして登場している。

切り口は、「排出量取引の国内統合市場の試行的実施」と、日本版の「オフセット・クレジット(J-VER)制度」の二つである。(注、VERは、Verified Emission Reductionの略)

前者は、京都議定書の第1約束期間の初年にあたる平成20(2008)において、低炭素社会に向けての企業などの自主的参加によるCO2排出削減を促す仕組みであり、後者は日本国内において、信頼度の高いカーボン・オフセット制度を目指す制度である。なお、カーボン・オフセットとは、自分(人・企業など)が出した温室効果ガスを、他の人・企業などが実現した排出削減等で自主的・間接的に相殺(オフセット)することをいう。

さて、二つの制度では、ボイラーやストーブの燃料を化石燃料から木質バイオマスに転換することにより二酸化炭素の排出量を削減した場合、削減量をクレジット化することができる。また、「オフセット・クレジット(J−VER)制度」では、木質バイオマス利用による排出削減のほか、森林整備による二酸化炭素の吸収量もクレジット化が可能となっている。

白書は各地における具体的な取り組みも次のように紹介している。

すなわち、山形県小国町役場と福岡県の温泉施設では、排出量取引に用いられるクレジットを木質バイオマス利用により創出する初めての案件として、ボイラー用の燃料をスギ間伐材等に転換して二酸化炭素の排出削減を図ることにしている。また、北海道の足寄町・下川町・滝上町・美幌

町の4町は、平成21年(2009年)4月から、二つの制度に準拠した排出削減・森林吸収プロジェクトを連携して実施する予定という。

また今後、排出削減目標の達成やCSR活動に取り組む企業に加え、日常生活や旅行などで排出した二酸化炭素のオフセットを目指す人々の間で、木質バイオマス利用・森林整備によるクレジットや、 これを活用したオフセット付き商品等の購入が進むことにより、これらの代金の一部が森林所有者などにも還元されることが期待されるという。

すなわち、クレジット等の購入は、わが国全体の排出量の削減に大きく寄与するが、同時に林業や山村社会の活性化、森林の適切な整備により、森林の温暖化防止機能の発揮等に貢献することになるとの期待がある。

ところで政府が考えている低炭素化社会における森林はどのようなものか。

白書で見ると、おおよそ次のようになる。

すなわち、我が国は、平成20年(2008年)6月、2050年までに二酸化炭素排出量を世界全体で半減するため、我が国で6080%の削減を目指すという長期目標と、世界全体の排出量を今後10年から20年程度の間に頭打ちさせる必要があることを明らかにするとともに、化石エネルギーへの依存を断ち切り、温室効果ガスの排出量を自然界の吸収量と同等レベルに収めると同時に生活の豊かさを実感できる「低炭素社会」に向けた政策を提示した。

平成20年(2008年)7月のG8北海道洞爺湖サミットでは、環境・気候変動がテーマとして取り上げられ、2050年までに世界全体の排出量を少なくとも50%削減するという目標などについて達成するため中期の国別総量目標を実施することなどについて一致した。

また、平成21年(2009年)12月にコペンハーゲンで開催される締約国会議(COP15)に向けて交渉が本格化する中で、2013年以降の先進国の森林等の吸収源の取扱いに関し、吸収量の算定方式や伐採木材製品中の炭素の取扱い等について議論されている。
一方、中央環境審議会地球環境部会は、低炭素社会づくりの実現に向けた取組の方向性について検討を行い、低炭素社会の基本理念として、カーボン・ミニマムの実現、豊かさを実感できる簡素な暮らしの実現、自然との共生の実現という3点を掲げるとともに、まち、移動、居住空間・就業空間、エネルギー供給、森林・農地・海洋等ごとに低炭素社会のイメージを例示している。

 平成20年(2008年)7月、政府は、前述の6080%削減するという長期目標の実現に向けた具体的な施策を明らかにした「低炭素社会づくり行動計画」を閣議決定した。

 これには、農山漁村地域が、バイオマス資源の供給源や森林等による炭素吸収源として低炭素社会の構築に重要な機能を担っていると位置づけた上で、間伐等による森林整備、地域材の住宅等への利用拡大、未利用木質バイオマス資源の資材・エネルギーへの利用拡大の取組等を行うことが含まれている。また、国全体を低炭素化社会へ動かす仕組みとして、排出量取引、温室効果ガス排出量等の「見える化」、カーボン・オフセット等の新たな取組も進めることとされている。

2) 政府予算に見る森林対策

政府が打ち出している一連の低炭素化社会政策は、森林や林業に関連する政策が多く含まれていることから、森林関連産業にも新たな経済的効果を生み出し、林業の活性化をもたらす可能性を期待させるものがある。

そこで、このような政策を推進するための政府予算はどのようになっているかについてみることにする。

2-1平成21年度経常予算における対策

先ず、低炭素社会の実現に不可欠な森林吸収源対策の一層の推進に向け、間伐等の森林整備が進みにくい条件不利森林の早期解消に向けた取組等の充実を図るとしている。

我が国の森林吸収目標1300万炭素トンの達成には大量の間伐を進める必要があるため、財源の確保を図る一方、地方負担、個人負担の軽減に取り組むとしている。

間伐については間伐等促進法の施行とあわせ促進措置を講ずるとしているが、平成19年より、間伐量を急増(従来水準に比して1.6倍の規模)させて取組んでいることから、対策が後年度になるほど条件が不利な場所が残されると見込まれている。

したがって、条件不利森林の早期解消の推進のため、公的主体への定額助成を新規75億円計上している。
次いで、森林所有境界が不明確なため間伐が進んでいない地域への本格支援策を導入する。

すなわち、森林境界を明確化する取組を定額助成方式で支援することによって、間伐実施の目途が立たなかった森林の集約化と間伐の実施を推進するため、森林境界明確化促進事業として10億円が計上された。

また林野公共事業は総額2,609億円の計上であるが、特定間伐等の促進のための路網整備の推進、過密化森林の適切な整備の推進などに力点が置かれている。

また、非公共事業については、森林経営対策として、森林資源の循環利用を行うためのビジネスモデルの構築に新規予算(2億円)が計上され、さらに、森林所有者負担軽減を実現する効率的な間伐等の推進や提案型集約化施業の拡大に取り組む。加えて、高性能林業機械の購入やリースによる導入を支援するとともに、高性能林業機械を使った効率的な作業に必要な研修を支援する。また、路網の整備等の条件整備を推進し、効率的な間伐の実施を図る。

また、人対策としての緑の雇用担い手対策事業、間伐材利用対策として、間伐により発生する木質資源の安定的な確保及び燃料用等への利用に対する支援を通じて、間伐と木質資源の利用を一体的に進めるモデルを構築し、また、都市の資本を含む社会全体の協働により、間伐材等の原燃料としての利用を推進するため、木質資源利用ニュービジネス創出事業、社会的協働による山村再生対策構築事業が措置されている。

また、最近の林野行政で力が入っているのが、美しい森林づくり推進国民運動の展開で、民間組織と連携して、これも間伐等の推進により、国民世論の形成を図るとしている。

なお、企業やNPO等の森林づくりをサポートする活動や、地域住民等が参画する森林の整備等を支援するため、美しい森林づくり活動推進事業として2億円が計上されている。

また、地域の森林づくりの推進役となる林業後継者の確保策については、経営感覚に優れた森林所有者の養成、山村地域の小・中学生を対象とした体験学習の実施を通じた林業後継者の確保を図るため、林業後継者活動支援事業が予定されている。
さらに、山村支援センターの創設であるが、これは企業・山村(原料供給者)との協議により、化石資源から間伐材等への原燃料転換等を支援する機能を持つものである。

木材産業総合対策としては、新規総合対策10億円が計上されたほか、木くず焚きボイラー、ペレットストーブ等の木材・木質バイオマス利用等施設整備の充実、国産材住宅づくりの推進など多岐にわたっている。

これらは、非公共事業費1,077億円に含まれるが、林野庁予算としては、災害復旧経費を含め総額3,786億円が計上されている。

2-2超大型補正予算における対策

景気対策としての、15兆円という超大型補正予算が国会に提出された。

森林関係については、「森林資源を核とした地域産業の再生・創造」を目指す、補正予算(林野庁関係)で金額としては2537億円に上る大型予算となっている。

前述4千億円弱の経常予算規模と比較しても大型であることが理解できよう。

内容を見ると、先ず、「森林吸収源対策をはじめとする森林の整備・保全推進」ということで、1,000億円、内訳は、森林整備事業(公共)790億円、これは森林吸収目標達成のための追加的間伐、木材の搬出コストの低減等に必要な路網整備等を実施するものである。

また治山事業(公共)210億円が掲上されているが、これは集中豪雨等により発生した集落周辺の荒廃地等において、治山施設の設置や機能の低下した保安林の整備を実施するものである。

これら、1,000億円のうち820億円が、森林吸収源対策として計上されている。

次いで、「森林資源の徹底した活用による林業・木材産業の再生」に1,458億円ということであるが、内容は、新規事業の森林整備加速化・林業再生事業(緑の産業再生プロジェクト)に1,238億円が計上された。 これで都道府県に基金を造成し、定額助成方式で間伐及び路網整備を行い、伐採・搬出・利用を一貫した取り組みで間伐材のフル活用を図ろうとするもので、地域木材と木質バイオマス利用を地域が一体となって進めるものである。

このほか、花粉の少ない森林づくり対策事業(100億円)は、首都圏近郊等における花粉の多いスギの伐採・植替え(3年間で300万本)、優良苗木供給の拡大などを支援すること、緑の雇用対策(50億円)は即戦力確保のための「トライアル雇用」事業や里山保全のための緊急雇用、担い手定着対策等の実施として、4,000人を見込んでいる。

森林整備地域活動支援交付金(31億円)は、森林所有者等が行う気象害等の状況の確認及び間伐促進のため境界明確化等を行う際の面積払いの実施経費である。

国産材住宅づくりの情報のワンストップサービスの拡充(5億円)は、国産材住宅づくりに関する情報サイト「日本の木のいえ情報ナビ」や相談窓口の機能強化に資する経費である。

このほか、()森林総合研究所における地球温暖化防止に関する研究施設等を整備する経費である。

さらに、林業経営に対するセーフティネットの拡大策として、信用保証の拡充(金融支援78億円)が計上されているが、これは経営改善に取り組む林業者・木材産業者に対する無担保保証枠を拡大(246億円)するための()農林漁業信用基金への出資等に必要な経費である。

以上のほか、林野庁以外の予算で目を引いたものを紹介すると、地域資源利用型産業創出緊急対策事業(新規192億円)は、農林水産関連施設等への太陽光パネル設置に係る経費支援を行うもので、また、離島などの条件不利地域において、農林バイオマス3号機など先進的な技術の導入を支援する経費である。

スギ花粉症緩和米試験研究拠点の整備(新規15億円)はスギ花粉症緩和米を早急に実用化するため、農業生物資源研究所が事業実施主体となって進めるものである。

バイオマス実証実験ベンチプラントの設置(55千万円)は、食糧の安定供給に悪影響のない、間伐材や稲わら等を原料とする、いわゆる第2世代バイオ燃料生産コストを低減し、国産バイオエタノールの生産コストの半減(100/L目標)を目指す技術開発を加速させるとしている。事業実施主体は民間団体等となっている。

以上を概括すれば、政府の森林整備の意図は、路網整備、間伐の促進、さらに続いてバイオマス利用を含む木質資源利用が主たる狙いになっているものと見られる。

3) 林業を取り巻く現実

さて、一方、森林や林業の現場はどうなっているだろうか。

かつて行政の立場にあった時、全都道府県を回り、森林整備について各地の要望や意見を聴き、少しでもその実現に努力しようと汗を流したことが懐かしい。また最近、折にふれての、現場訪問の際、当時、地方の森林行政の推進に頑張っていた人たちと再会するのも楽しみである。

過日、九州のある県に出かけた。比較的コンパクトな県で、森林面積も十万ヘクタール強程度、深山幽谷と呼ぶほどの森林もなく、海岸線から近いところに位置している森林は、殆ど里山と呼んでもおかしくはない。

この県とは、昭和四十年代からのお付き合いがあったが、特に昭和五十年代に入って、筆者が林道担当をするようになってから、しばしば訪問するようになった。

理由は、前述したように、大森林地域とはいえないが、まとまりのある地域で行政担当者や市町村の首長さん達も森林整備に夢を持っておられたという背景があった。

筆者としても、このような地域での予算投入は、効果的であり、将来の森林・林業のモデル地域になり得ると判断したものであった。

爾来、三十年を経過して訪問した現地はどうなっていたか。人工林の樹木すなわちスギやヒノキはおおむね想定通り成長しているものと判断され、間伐も含め収穫期を迎えている。

一方、林道整備はどうか。筆者としては、既に路網も完成し不況の真っただ中とは言え林業的には頑張っているものと期待をしていたが、この点については予想通りとはいかなかった。

先ず、路網が未完成であるということで、これは、この地域に限らず他の地域でも、さらに日本の公共事業を通じて同様な現象が見られると考えている。

もう一つの問題は、林道ができていても間伐が順調に進んでいないという現実であった。

今回の大型補正では、問題点についてはかなりの是正措置や配慮がなされている。

先ず、予算が消化しきれるかという疑問に対しては、地方負担金問題について、定額補助方式の拡大のほか、別途、地方対策として、地域交付金を計上し、地方単独事業等からの振替を地方に促し、いわゆる玉突き方式で処理する方向のようである。

また、経常予算を膨らませず、地方負担分について一工夫を凝らすなどの方策は、緊急的財政出動を恒常化させないなどのための知恵ではあろう。

これまでしばしば見られた、予算のだらだら投入は、今後、景気対策のみならず、低炭素社会実現についても、このようなやり方を改めないと効果は上がり難いと考える。

ところで、林道の現場で得られた感想は、特定の地域への集中投資方式は、我が国では、相変わらず大変実行が難しいようである。

横並び一線方式をできるだけ速やかに改めることができるかを工夫する必要がある。

また、林道が完成したら即使えるかとなると、これも、どうもそうではないようである。

現地で見聞したことだが、林道の片側は、間伐が実行され基盤整備の効果が見られたが、もう一方の森林は、間伐が行われていなかった。理由は、所有者との関係であるようだ。現在の森林問題の一般論とも通じる問題であるが、一つは、木材価格の低下から所有者に伐採意欲がわかないこと、もう一つは、森林の所有界が不分明で実行できないという理由である。

材価や所有界の問題は、30年前に比べてさらに悪化していることは理解できるが、このままでは、森林整備の困難性は増すばかりであろう。

所有界問題については、今回の補正での踏み込みに期待が掛かるが、どれくらいのスピードで実行されるかが注目される。

一方、林業関係有識者の意見を最近ある誌面対談で拝見したところ、要約すると「林道づくりがもっとも重要で、日本はヨーロッパに比べて極めて林道が少ない。ヨーロッパでは1ヘクタール当たり50メートルの林道があるのに、日本にはわずか15メートルしかない。」とあった。

筆者の記憶では、30年ほど前で、林内自動車道は、ヘクタール当たり13メートル、内訳、林内公道9m、林道4mであった。

市町村道などの公道を含めて考えていたのは、いわゆる林内公道は林道と同等の機能を持つことやまた林道から公道への移管もしばしば見られたこともあり、これらを併せて考えることが合理的とされていたからである。

さらに作業道を加えた路網整備が進めば進むほど低コストで森林整備が進むと考えるのが普通である。

しかし、実態はどうか。例えば、九州のM県の林内路網延長は、1975年の5,612,905mから、30年後の2005年には、14,420,925mに増大し、さらに増え続けている。

なお、対前年伸び率は、平成19年度においては0.8%で鈍化したものの、それ以前は、平成3年度以降対前年平均1.58%の伸びを示して来たところである。

つまり、路網整備は、関係者の努力によって大幅に進んだと見られる。

しかし、一方、国産材製材用素材実質卸売り価格指数を見ると、同県の場合、1975年度の347.8から、2005年度には100.0に低下した。

つまり、路網整備による木材供給の生産性が向上し、地域材供給力は向上したものの、買い手側の要求によるものか、あるいは売り手側の事情によるものかは分からないが、価格の低下に歯止めは掛かっていない。したがって、森林所有者等への還元はさらに悪化しているのが現状である。

これを改善するには、追加的な政策及び資金的サポートが必要になる。

すなわち、森林造成の仕組みを大幅に見直し、造成コストを下げること、路網整備については木材の伐採・搬出の利便性を高める機能として認識することは構わないが、同時に森林の造成コストを低下させる機能として認識すべきである。

例えば、高密路網を利用しての大苗植裁、ポット利用、植裁本数削減、複層林経営の拡大による林業改革などが、30年前に想定されていたにもかかわらず、遅々として進まなかった原因は何処にあるのかについて徹底検証が必要である。

同時に植林・育林セクターの意欲を増進するための直接的支援を含む強力な梃子入れが必要である。

このままでは、我が国の森林造成において、国際的にもユニークな手法である分収システム(プロフィットシェアリング)についても赤字収支を嫌う人が増加し、システムの弱体化を見ることになろう。

また、造林木の利用の主目的は、建築材の供給にありとする古典的な考え方は、1千万ヘクタールの人工林の成熟期を迎えた現在、供給力過多となる、一方、切り捨て間伐材の林内放置が多くなり、目につくようになってきている。これでは、もったいない運動などに水をさすことになる。したがって、低炭素時代のニューディール政策の必要性が叫ばれ、自然エネルギー利用に理解が進んでいる現在、自然資源である木質資源の供給力を活かす政策が欠かせない。

3)低炭素社会実現のための政策論など

先ず、小宮山 宏氏(三菱総研理事長・前東大総長)の家庭のCO2削減へ「自立国債」の提案(日経新聞・経済教室)によれば、我が国の二酸化炭素の総排出量の45%は、「ものづくり」つまり、鉄鋼、化学、紙、窯業、自動車、家電などの部門から出ているという。

残りの55%は、「日々のくらし」分野で、家庭、オフィス、輸送(自動車)などの日常活動が過半を占める。つまり、日本の温暖化対策は、「日々のくらし」の低炭素化を目指す方が実現可能性が高い。具体的には、創エネルギーとしての太陽光発電、省エネルギーとしてのオフィス・住宅の窓の断熱化、高効率のルームエアコン、同じくヒートポンプ給湯、ハイブリッド自動車の普及などであるが、問題は、個人の側から見て、月一万から数万円程度の電気・ガス代を節減するためにかなり多額の設備投資を行うインセンティブ(誘因)が働かないというのがネックになっているので、この解決策として、「自立国債」を発行して、個人等の設備投資を国が立て替え、創エネ・省エネ収益を利払い・償還にあて、償還後は設備を個人に譲渡する。

このアイデアに注目したい。何故ならば、前述の政府による大型予算にしても、その評価について、将来取り戻しが可能かどうかが重要な因子になる。

このことは、太陽光発電を例にとると分かりやすい。
最近、国や自治体がソーラーパネルの設置に補助政策を組み込んだことから、一定の効果が見込まれるものの、15年程度の償却期間を見込む必要があるため、高齢者世帯などでは、二の足を踏むケースが多いと思われる。そこで、この期間は、屋根などの設置スペースを無償で提供し、売電収入は国が償還に当てるので、個人にはメリットは無いが、償還後は設備を個人に譲渡することでメリットが生じ、低炭素化が急速に進むという利点がある。

もちろん設備生産関連の内需拡大メリットも大きいのはいうまでもない。

省エネのエコハウスでは、先ず太陽光パネルの設置や二層ガラス窓の設置が考えられるが、窓枠の木質化を並行的に進めることで、低炭素化に拍車がかかる。これも立て替え投資に組み込むことで、明確な意図を持った低炭素型森林整備に繋がるものである。

もう一つ、同じく日経新聞の経済教室の論考で、山下一仁氏(東京財団上席研究員)の提案が目に付いた。

すなわち、今農業が雇用の受け皿として注目されているが、農業は就業人口299万人で、一人あたりの所得は最大でも年間157万円であり、人手不足ではなく過剰就労であり、収益が低いため、後継者が無く高齢化してきたと分析している。

また土地利用効率からは、花つくり、野菜生産などがあまり農地を必要とせず高収益をあげる傾向にある一方、コメなどの土地利用型農業は、取り巻く状況が厳しく、高齢化、兼業化、耕作放棄が進んでいるとの分析である。

論旨としては、一般の企業による農地賃貸借を可能とする本年の農地法改正とも関連してのスケールメリットの追求、減反の段階的廃止、コスト低下などによる新たな政策展開を目指すべきとしている。

確かに、今回の補正予算の内容にも見られるように、バイオマス実証プラントの導入などいわゆる第2世代バイオ燃料生産コストを低減する政策などが組み込まれているが、農業と林業に共通するテーマとして、我が国の田園地帯や里山地域の自然の持続は及び自然と親和性の高いライフスタイルの持続は低炭素社会実現の重要な要素をなすものであるから、自然が豊かな地域の担い手人材の育成・定着などの充実が関連政策として推進されることに期待したい。

4)森林力への着目

低炭素社会実現には、国土の七割近くを占める森林及び森林地域の活性化策が重要である。

このため新たな視点からの発想や政策の展開が必要なことはいうまでもないが、本稿では、森林力の分析について若干記述しておきたい。

従来、森林の機能については、昭和40年代から、林野庁主導により、森林の公益的機能の貨幣価値による評価が行われ、国民に広く森林の価値として認識されてきたところである。

その後の状勢変化も踏まえて、新たな視点から森林力の分析を行って低炭素社会の実現と関連しての森林政策の前進や人々の森林問題への関心を高めてもらうため、この際、森林力の分析を深め、かつ分析が種々進んでいるいわゆる民力などとの関連も追求するとともに、森林と社会との調和・均衡的発展を図る政策実行の時代の到来を意識するものである。

森林の広がりが地域の七割から八割も占めているような府県や九割以上が森林という自治体も存在しているが、これらの地域は、自然の資源には恵まれているものの過疎・高齢化や産業・所得の低迷に悩んでいるところが多い。

一方、民力については、分析がかなり進んでいるが、総じて民力が高い地域は、人口集積が進み、経済力、財政力が高く、生活の利便性も高いというような地域であり、直感的には、森林力の高い地域とは諸条件が相反する関係があるように思われる。

このような地域においては、知事さんをはじめ首長の方々、あるいはまた行政に携わっておられる方々が状況改善のために大変な努力を続けておられるところであるが、そのようなご努力に少しでも役立つデータの提供などが出来ないものかと考え、筆者が所属するシンクタンクでは昨年から、森林力の調査研究に取り組んでいるところである。最終的なまとめについては、今後二年程度を要すると考えているので、本稿においては、筆者の私見ということになるが、森林力について述べさせていただき、この際、各種のご意見やご提案をいただいて向社会性のある結果を得たいと考えている。

先ず、森林力と民力との関係であるが、因子により、相関あるいは逆相関の関係にあるかどうかは、今後の分析が必要ではあるが、総合的に考えると、例えば、東京23区のような地域は、民力は極めて高いが、少なくとも森林法に定める森林は、ゼロと見て良い。もちろん緑地や公園の整備は行われており、筆者が居住する渋谷区は、明治神宮や代々木公園のような大きな緑地を保有しているので、緑地率は区の約1割を占めている。

しかし、七割から九割も森林が占めている地域に比べると自然資源の存在については、大きなギャップがある。

このギャップを埋めるべく、例えば新宿区では、長野県伊那市と提携して、先ず毎年30ヘクタール以上の間伐を実行することになった。

このような動きは、もちろん推奨されるべきであり、また今後、各地で広がると考えているが、筆者としては、森林力の因子をいろいろな角度から捉えることで、地域間の連携が実現されやすくなる、地域の為政者等が政策立案を行う場合に、力点をどこに置くべきか、あるいはどの程度の資金を含む政策投入を行うべきかなどの判断する場合の参考データを提供できればと考えているところである。

森林力については、いろいろな考え方があろうかと思うが、大くくりとして、数項目のカテゴリーを考えるとすると、先ず基本的・直接的な森林資源集積について指数化することが考えられる。すなわち、基本的な森林資源力ということになるが、森林面積、蓄積、天然性林、人工林、広葉樹林、針葉樹林、混交林などが対象となろう。さらに循環森林として期待される複層林についても因子として加えるべきであろう。

次いで、国土保全力、環境力、文化力、地域力、人材力のほか、次世代・未来型森林力というようなカテゴリーも考えるべきであろう。

各カテゴリー別に、思いつくままに因子について拾ってみると、国土保全力カテゴリーとしては、災害防止力指数として、土砂災害防止力、風水害防止力、防潮などの施設水準、災害危険地減少指数などが考えられ、環境力カテゴリーとしては、CO2吸収力、水源涵養力、水質浄化力、森林・自然公園、環境指標林などに着目すべきであろう。文化力カテゴリーとしては、風致・保健林、史跡名勝、各種保護林、遺伝子等保存林などが考えられる。

地域力カテゴリーについては、産業・経済・人材力等に着目したいと考えるが、現在の森林地域では因子によっては低めの結果が想定されるものもあり、今後いかに高めていくかが問われる分野であろう。

因子としては地産地消力、環境・森林税収、木竹炭化力、市場・流通力、森林路網整備水準、自然エネルギー生産力(バイオマス、風力、水力、太陽光発電力その他)、高性能林業機械力などが考えられる。

人材力は地域力の中でも考えることもできるが、構成因子としては専門家集団層として技術士、林業技士、樹木医、森林インストラクター、木造建築士などの有資格者数や活躍度合いの指数化などについて分析を行うことが考えられる。

なお、次世代・未来型森林力カテゴリーであるが、未来のチャレンジ力を高めることに関係が深い林業教育機関数、学生・生徒数、研究機関、大学等の研究力、ボランティア活動力、モデルフォレスト運動などの地域協働力、募金力などが検討対象になるかと考えられる。

以上のほか、関連指標として、地域森林環境力関連で自然観光入り込み者数、トレッキングコース、森林浴、セラピー基地などの健康・癒し力、屋上緑化水準、省エネシステム普及度なども分析対象となりうると考えられる。

もちろん以上のほかにもカテゴリーや因子として適している項目があると思われる。

むしろ森林力という概念は時とともに進化し、成長するものと考えるべきものであろう。

おわりに

低炭素社会や循環社会を実現して良好な地球環境を持続させるために森林整備が必要だということについては殆どの人が賛成するであろうことは間違いない。

しかし、森林力の項で述べたように、森林の整備を行って森林力を高めるべき地域は、必ずしも必要な財政的負担などに耐えられるとは言い切れないという現実がある。

この問題を解決するには、先ず、地域内協働とさらに地域間協働を実現させることが必要であると考える。

つまり、森林力と民力の結合が円滑に行くことが重要といえる。

さて地域内協働としては、森づくりを通して環境保全と地域活性化を進めることにおいて現在際だった活動が見られるものに、「京都モデルフォレスト運動」がある。

この運動は、山田啓二京都府知事の強力なリーダーシップのもとに仕組みがつくられ、今や京都府全域に分布する34万ヘクタールの里山林・名所旧跡・社寺有林も含め全ての森を対象に産官学府民協働の地域総ぐるみの運動に発展しており、ボランティア団体・企業・大学が連携しての森づくりプロジェクトは、本格的運動開始(平成1811)後わずか2年有余の期間で22箇所を数えるほか、森の健康診断やワークショップなどが頻繁に開催され、ボランティアグループのリーダー人材の育成が進められている。

現在、モデルフォレスト運動は府の行政(緑のアクションプランによる森林整備など)とあたかも車の両輪を形成して進められており、モデルフォレスト運動そのものは、社団法人の京都モデルフォレスト協会が担当しているところであるが、柏原康夫理事長(京都銀行頭取)の活躍に目覚ましいものがある。

氏が新聞等でPRに努められているものの中で、今年4月の日経新聞掲載文の一部を引用させていただくと、「当行では、一昨年十月に嵐山の研修所敷地内で、地元の小学生やその父兄、住民らとともに、四千本の苗木を植える植樹祭を行った。(中略) また、即年七月には、森林整備に取り組む地方銀行にも呼びかけ、「日本の森を守る地方銀行有志の会」を立ち上げ、その参加行は六十四行中五十六行と全国に広がっている。この十二月には京都で、各地銀の頭取などが一堂に会し、行政や経済界関係者と、森林保護や林業再生などをテーマにしたサミットの開催も予定している。森を守る活動の一助になればと願う。」というものであるが、地銀有志の会は、昨年、氏が山陰合同銀行の頭取に呼び掛けられたところから始まったとのことであるが、一年足らずで五十六行の参加とは、氏のご熱意とともに、現今の経済不況の中にもかかわらず参加を決意された各行に心から敬意を表したいと思う。

今後日本列島各地に新しいスタイルの森づくり運動の輪が広がることを期待するものである。

さて、本稿の締めくくりとして述べておきたいのは、重要なことは、パートナーシップの形成とネットワークの確立ということでなかろうか。

つまり、京都モデルフォレスト運動は、我が国初めての本格的な森づくりの地域協働運動といえるが、運動の波が各地に広がり、かつ定着するためには、地域間協働のネットワーク化が必要と考える。そのような意味で地銀ネットワークとしての有志の会の今後の動きに期待したい。

ところで現在、もう一つの森林についてのネットワークの試みが検討されている。

それは、「森の駅」ネットワーク立ち上げである。昨年春、地域交流センターの岡本守生氏に、各地に「道の駅」、「島の駅」など多くの駅が立ち上がったのに「森の駅」が聞こえてこないのは何故だろうかと話したことがきっかけとなり、地域交流センターが中心になって検討が進んでいる。

考え方としては、物まね的な考え方ではなく、低炭素社会づくりに貢献するよう、カーボンオフセットの発想を組み込むなど向社会的な「森の駅」ネットワークができれば素晴らしいと思う。東京や京都の街の真ん中にキーステーションがあっても良い。したがって、名称も既設定のものを用いたいという場合もあり得るが、要はネットワークの活動に参加することの方が重要であると考えたい。

カーボンオフセットの具体化も環境省が積極的に取り組んでいるが、森林のカーボンオフセット(森林J−VER)については、環境省・林野庁の連携で進められ、518日の公表では、事務局である気候変動対策認証センターに5件の申請があった。その内訳は、高知県の「森林吸収量取引プロジェクト」、森林計画(株)の「諸戸山林・持続可能型森林経営促進プロジェクト」、森林バイオマス吸収量活用推進協議会の「北海道4町連携による間伐促進型森林づくり事業」、住友林業(株)の「社有林管理プロジェクト1(宮崎事業区山瀬地区)」、(株)フォレストバンクの「徳島県那賀郡那珂町における森林吸収源事業」であり、今後、同センターでパブリック・コメントを募集した後、同センター内の内部審査を経て、オフセット・クレジット(J-VER)認証運営委員会による審議を受けることになる。

国内の森林についても吸収クレジットの発行が間近に迫ってきたということである。

低炭素社会・循環社会にとって森林整備が極めて重要であることの認識が深まることを願ってやまない。


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