報告者 長縄 肇 氏
長縄肇氏(森林塾同人)は現在国際協力事業団からインドネシアに派遣され、森林火災対策に携わっています。
平成14年9月26日に開催された、森林塾の例会で、インドネシアでの生活、火災対策について報告していただきました。
平成14年11月4日、インドネシアの長縄さんから、次のメールと実際の森林火災現場の写真が送られて来ましたので、紹介します。
「時下ご健勝のことと思います。
こちらはまだまだ乾期がつづいています。相変わらずあちこちで森林火災がつづいており、私も特別訓練の指導で出歩いていますが、先週森林火災の現場に立ち会いました。
一旦ついた火はなかなか消えず大変です。
参考までに写真を添付します。」
火災現場で煙に巻かれないように注意してください
只今放水中
2002年9月20日作成
「森林火災予防計画フェーズ2」のあらまし
背景
インドネシアの熱帯林面積は、世界の熱帯林の約10%を占めているが、現在その急速な減少に直面している(1990年から2000年までの10年間で年平均130万haが消失した。)。インドネシアの森林総面積の13%を占めている国立公園は、国際社会からも保護すべき重要な資産であると認められており、その保護は喫緊の課題となっている。
1997年及び1998年には、大規模な森林火災が発生し、13万haの国立公園を含む80万ha以上の森林が失われた。また、ヘイズの発生によってASEAN各国への大きな環境的経済的被害を引き起こした。
インドネシア林業省とJICAは、1996年から5年間にわたり森林火災予防計画(FFPMPフェーズ1)を実施し、衛星を利用した森林火災早期発見の技術開発に寄与するとともに、ジャンビ州及び西カリマンタン州において、参加型森林火災管理モデルを導入し、初期消火訓練を実施した。
長縄さんから追加の写真が送られてきました。
森林火災の上空の様子
森林火災の状況
火災訓練
農地の火災後の様子
農業活動のための火入れなどに起因する森林火災は、森林減少の大きな要因であり、森林火災対策は、引き続き、林業省の最優先課題の一つとなっている。このため、FFPMPフェーズ1の成果を改良し増強するため、林業省とJICAは2001年4月15日に森林火災予防計画フェーズ2(FFPMP2)を発足させた。
FFPMP2の目的は、国立公園を保護するためにインドネシア側にとって持続可能な森林火災予防と初期消火活動を行うことである。
FFPMP2においては、衛星情報の利用によりスマトラやカリマンタンにおける火災情報を提供するとともに、重要な天然資源を有する国立公園を優先的な保護対象とし、具体的な活動サイトとして、ブキットティガプル、ブルバック、ワイカンバス、グヌンパルンという、地理条件、自然条件の異なる4つの国立公園を選定した。これらの国立公園のレンジャーに対して、ポンプを利用した消火訓練を行い、現場レベルにおける初期消火活動のモデルとするとともに、公園職員、地方政府、NGOと協力して、農民、市民や学校の生徒に対する森林火災防止の必要性についての啓蒙と適用可能な活動を広く普及することにより、インドネシアにおける森林火災の防止に貢献することを目指すこととしている。
活動
FFPMP2では、次の4つの分野に焦点をあてて活動を行っている。
早期警戒発見
初期火災消火
啓蒙普及
参加型森林火災防止
T.早期警戒発見
森林火災の早期発見のために、ジャカルタにおけるFFPMP2のプロジェクトオフィスで、NOAAと「ひまわり」の2つの衛星からのデータを受信し加工処理している。
1.NOAAによるホットスポットの検出
NOAAは、高度850kmの上空を1時間40分で地球を一周する衛星であり、毎日概ね決まった時間に受信することができる。NOAAには、AVHRRと呼ばれるセンサーが搭載されており、このうち主に近赤外のバンドを使用することにより、地表面の温度を検出して、森林火災の位置をホットスポットとして示している。
ホットスポットとは、衛星からのデジタルデータにより得られた一定の閾値よりも高い温度を有する画素を示す専門用語である。FFPMP2では、ホットスポットの単位は、地表面で一辺1.1kmの正方形の中に高温値が現れた場合、1箇所と提示される。ホットスポットとして検出される閾値は、1997年以来、昼間の受信では315°K (42℃) に、夜間の受信では310°K (37℃)に設定している。なお、雲や厚いヘイズに覆われている場合は、ホットスポットは検出されない。
FFPMP2では、スマトラ、カリマンタンのほかに、スラウェシ、サバ、サラワク、シンガポール、マレー半島の南半分の地域において出現するホットスポットがカバーされている。
2.「ひまわり」によるイメージ像の作成
「ひまわり」は、東経140°の赤道上3万6千kmの上空に位置する日本の静止衛星であり、毎時間ごとに雲やヘイズのイメージデータを供給している。「ひまわり」には、VISSRと呼ばれるセンサーが搭載されており、可視・赤外バンドを使ったカラーイメージによって雲とヘイズを判別して捉えることができる。
3.データの加工処理と提供
FFPMP2のプロジェクトオフィスでは、NOAAとひまわりから毎日のデータを受信した後に、これらの加工処理を行う。各ホットスポットは土地所有、土地利用区分別に整理され、図面上へも落とされる。これらの加工処理された情報は、林業省森林火災対策局を通じて、4国立公園、自然資源保護センター(BKSDA)、各州森林局やその他の火災対策機関へ送付される。これを受けて現地の担当機関では現場の調査や消火対策を図り、その結果をフィードバックしている。
ホットスポット情報は、FFPMP2のホームページで公表されており、また、Eメールでも配布可能である。
このほかに、FFPMP2では、定期的な気象データに基づき、火災危険度を早期に確認し警戒するための情報システムを試験導入しており、GISの技術を利用して延焼危険度図を開発しているところである。
U.初期火災消火
FFPMP2では、重要な天然資源を有する国立公園を保護するために、4つの国立公園のレンジャーを対象に、森林火災の初期消火訓練を行っている。
1.消火訓練のためのカリキュラムの開発
FFPMP2は、国の森林火災消火標準化訓練の開発計画会議に参加し、これを受けて各技術レベルを考慮した訓練コースを開始した。
4つの国立公園のスタッフが、消火の技能、知識、役割分担、技術を発展させるため、公園消防隊のための日常訓練モデルを開発した。カリキュラムには、ポンプの設置、特性とメンテナンス、ポンプ及びハンドツールの基礎的な使い方、危険情報図の作成手法、倉庫管理手法などが含まれている。
FFPMP2では、2001年から2002年にかけて、グヌンパルン及びワイカンバス国立公園と協力して、ハンドツールやポンプの使い方、メンテナンス、日常訓練、危険事態への対処について、マニュアル、VCD、パネルなどの補助教材にまとめ、消火訓練の際に活用している。
2.消火訓練
a. 消防隊のモデル
消火マニュアルには、どのような状況においても適用可能な基礎型が示されている。4つの国立公園のレンジャーは、システム化された消防隊の隊員として必要な日常業務を実行し、隊長のリーダーシップの下で迅速的、組織的、効率的に行動しなければならない。
各公園のレンジャーが自らのプロジェクトサイトにおいて訓練した後に、全レンジャーが集まって各々の経験を分かち合い、モデルの改善を図ることが適当である。このため、訓練期間の終わりに、各公園のレンジャー間で、迅速性、態度、気概、安全面、説明のポイント、組織的効率的な運用を主要な判断基準とするコンテストの開催を予定している。
b. 消火訓練センター
ブキットティガプル国立公園に消火訓練センターを設置し、2002年後半から4公園のレンジャーを対象にして初期消火の集合訓練を行うことにしている。この建物は、エコツーリズムを目的とした入り込み者にも活用が可能であろう。
3.国立公園での火災予防及び初期消火モデルの構築
レンジャーによる消防隊が組織化されたことから、今後は、火災予防パトロールシステムを確立するとともに、林業省が推進する地方レベルの消防組織化に対応して、国立公園以外の保全林を管轄する自然資源保護センター(BKSDA)との協力を推進する。さらに、地域住民への普及により参加型消防活動の確立を目指すこととする。
V.啓蒙普及
FFPMP2では、効率的に森林火災防止の啓蒙普及を進めるため、各ターゲットグループに焦点をあてて、キャンペーン、フィールドワークを実施するとともに、データベースや教材の整備を行っている。
1. キャンペーン
FFPMP2では、森林火災防止の必要性について都市住民の認識を深め、ポリシーメーカーを強化するために、森林火災防止キャンペーンを実施している。2002年のキャンペーンは、ジャンビにおいて乾季が始まる6月に、州政府、森林局、他の関連機関を含んだ実行委員会形式で行われた。キャンペーンは州知事の宣言により開始され、森林火災防止ソングを取り入れて、TV、ラジオ、新聞による毎日のメディアキャンペーンが繰り広げられた。「一緒に森林火災を防止しよう」という500の垂れ幕が主要な通りや街角に掲げられ、中学生が、ステッカーを市の周辺で配布した。キャンペーンを締めくくる大会では、林業省自然保護総局長や州の森林局長のスピーチ、森林にかかるクイズ、森林の絵画のコンテスト、国立公園のスタッフと生徒によるドラマ、ワークショップが行われた。
今後、森林火災防止キャンペーンは、国家レベルのキャンペーンになることが期待される。
2. 研修会への活用
インドネシア政府による研修会に、プロジェクトの成果を活用している。2001年に、ボゴールのトレーニングセンターで行われた研修会における啓蒙普及コースには、28人の参加者があった。2002年には、全国ボーイスカウト大会がジャカルタ郊外で開催され、FFPMP2は教育プログラムのパンフレット紹介、初期消火訓練の指導を行った。
3. 優良モデルのデータベース化
FFPMP2では、啓蒙活動を支援し、他地域への適用可能性を増強するため、森林火災防止活動の優良モデルをデータベース化し、普及することにしている。
4. インターネット等を利用した情報提供
FFPMP2では、森林火災防止活動の内容やイベント、トピックを3ヶ月ごとにニュースレターに編集し、インドネシア語と英語で発行しており、ホームページにも掲載している。また、カレンダーやステッカーなど農民や生徒向けの普及啓蒙活動のための材料を作成している。
5. 農民
森林の周辺に居住する農民は、最も重要なターゲットグループのひとつである。農民への普及活動の目的は、集会を開き意見交換をする中で、問題点の発見と解決を通じて、森林保全と森林火災防止の必要性の認識を増強することである。FFPMP2では州の森林局、農業局や村長、地域のNGOなどと協力して活動を行っている。
6. 学校
学校に対する普及活動の目的は、森林保全と森林火災防止について生徒の認識を深めさせることである。2001年にはプログラムの第1ステップとして、ブキットティガプルー及びワイカンバス国立公園の周辺の小学校を対象に、教師や教育局との打ち合わせを経て森林教室を開催した。今後、第2ステップとして、中学校教師を継続的なターゲットグループに設定し、他の地域への普及にもつながる教材を作成していくことにしている。
W.参加型森林火災防止
FFPMPフェーズ1においては、ジャンビ州と西カリマンタン州において、活動形態の異なる農民を対象として、参加型森林火災防止プログラムを実行した。
ジャンビ州では、農地と公園との間に、動物の侵入を防ぐフェンス、水路、防火樹帯を設定するIntegrated Green Belt(IGB)を発展させた。西カリマンタン州では、農地と公園との間に、窒素固定木と木材利用木の防火樹帯を設定するSloping Agricultural Land Technology(SALT)を発展させた。
両方のプログラムとも、森林の周囲に居住する農民の土地に複合的な機能を持ったグリーンベルトの造成を行い、獣害からの農地の保護、果樹の植栽による副産物入手等の動機付けをすることにより、農民が自らの土地を保護して火災の危険性を減少させるという、農民参加による森林火災管理が行われることを狙っている。
FFPMP2ではこれらの成果についてモニタリングを行い、プログラムの改良と他地域への適用可能性を検討していくことにしている。
X.その他
FFPMP2は、プロジェクトの成果を普及するために、林業省、国立公園、他の関連機関、NGOとワークショップ等に積極的に参加している。また、地方分権化が推進される中で、地方レベルの担当機関との協力を進めるため、州政府、森林局、教育局などとの情報交換も行っている。
2001年には、マレーシアにおけるJICA造林技術開発プロジェクトと経験や情報の交換を行った。
2002年6月にASEAN土地森林火災国際会議が開催され、ASEAN10か国の火災対策関係者が、国境を越えるヘイズ公害についての合意文書に署名を行った。FFPMP2は、専門家会合に参加し、消火、啓蒙普及、早期発見、森林回復等について、今後のASEANの活動に対する提言を取りまとめた。
森林火災予防計画フェーズ2の概要
JICA長期専門家
5名
チーフアドバイザー
業務調整
早期警戒発見
初期火災消火
啓蒙普及
参加型森林火災防止(兼務)
カウンターパート機関
インドネシア林業省自然保護総局森林火災対策局
プロジェクト期間
2001年4月15日〜2006年4月14日(5年間)
プロジェクトサイト
4 国立公園
ブルバック国立公園(ジャンビ州)
ブキットティガプル国立公園(ジャンビ・リアウ州)
ワイカンバス国立公園(ランプン州)
グヌンパルン国立公園(西カリマンタン州)
連絡先
Tel/Fax : 021-5790-2950
Home Page : http:ffpmp2.hoops.ne.jp/
E-mail : ffpjica@indo.net.id