森林塾例会報告 H15.3.27

寺田さんからの報告


グリーンパワー4月号に寺田さん執筆の、森林塾の活動紹介の記事が掲載され、執筆者の寺田さんから内容について報告がありました。



 忙しない都会生活の中でも、森や自然を語り合える場があればいい。仕事や研究テーマの異なる人たちと交流ができれば、情報や知識を得られるだけでなく、人生の励ましにも慰めにもなる。元林野庁長官の小澤普照さんが主宰する 「代々木森林塾」(注、名称は「森林塾」、代々木所在です) (http://www2.u-netsurf.ne.jp/~s-juku/)は今年、創立10周年を迎えた。

 それぞれの「森をめぐる仕組み」を

 森林保全に取り組む小澤さんの考えや活動を聞いた。
 − これまで各国の森林や林業の現場を視察されてきましたが、果たして今日の世界は大気、海洋を含めて「自然は危機」ですか。どう受け止めていますか。

 一言でいえば危機的状況は続いています。緑の減少や大都市の大気汚染にしても、悪状況に浸かっていて、人間の感覚が麻痺してくる方が恐ろしい。自然の危機は人類の危機と直結している。今後は感性を研ぎすませ、より科学的に状況を把握する必要がある。

 −自然の保全に取り組み、人間と自然がバランスよく共生できている土地はありましたか。日本にとって参考となる先進的な国は?
 
 世界的な環境悪化の中で、人口圧迫が少ないところや経済水準の高いところは、保全への取り組みも行いやすい。さらに共生となると、完全なものはまだ無いが、地域ぐるみでの動きとして、カナダのモデル森林活動やドイツの環境首都の考えなどは、日本の参考になります。

 − 森林塾の活動は、どんな成果を挙げていますか。今後の目標は何ですか。

 成果は目論んだものではなく、あくまで結果ですが、東京での集いが各地域での活動につながっているということです。
 卒塾者や塾の同人で、現在地方で活動している人たちは多く、例えば、「土に還る木づくり」をする関田喬さん、「千年の森」活動の鶴見武道さん、「みどり塾」を続ける長野県上伊那農業高校の遠山善治先生、木曾山林高校で職業教育に打ち込む高島顕先生、操縦桿をスコップに持ち替え内蒙古ホロンパイル草原の植林現地駐在員の長南一夫さん、奥多摩レジャー林業リーダーの羽鳥孝明さんなど多彩といえます。
 今後の目標は、より戦略的、実行型の塾活動を心がけ、共通の目線を持つ各地のグループとのネットワーク化を進めることです。「森林の市」 への参加も続きますが、多様な活動を支援できるリーダー、塾長を結び付けたいのです。学術的なレベルを博士級に高め、より大きな森林、地球環境活動を進めていきたい。

 − ところでかつて林野庁長官を務められました。国の林野行政で、森林保全や国有林野の維持に関して、今後さらに取り組むべき課題は何ですか。

 国土の7割が森林ですが、身近な存在としての森林が少ないようです。今は癒しの機能も期待される森林空間を、真に共生の場にすることができるかどうか、が課題です。またカーボンシンク (緑の炭素貯蔵庫)としての機能の増強について国有林は率先して行う必要があります。私有林も所有者が高齢化するなど放置された森林が増えています。そこでNPOなどに経営参加を求めるほか、地域特性を活かした政策の展開が必要です。京都議定書で有名な京都でしたら国際交流の森をめざす、豊富な循環資源を活かせる宮崎ならクリーンなエネルギーの利用や中国との木材貿易も可能。地域それぞれの動きを国は支援することが必要です。

 − 次代を担う青少年の自然への意識、愛情を滴養することが大切だと思いますが。

 学校林のある学校は全体の1割。まず、すべての学校が森林を十分体験できるようにすべきです。大切に育て、使うということが観念論ではなく、小さいときから身に付くようにしないと、「地産地消」とか、地域材を使おうとかいっても、そもそも見分けさえつきません。最近小学生から地球環境について役立つことをしたいが、どうしたら良いかという質問が、森林塾のホームページに寄せられます。木でモノを作り、炭を焼き、家族ぐるみで汗を流す暮らし。そんな自分たちが入っていける森と仕組みを、どこの地域にもつくりたいものです。

子どもたちにもっと緑を!

 参加者が意見交換を重ねる毎月の例会のほかに、森林塾はメンバーそれぞれの活動を集約した「ザ・森林塾」を出版し、毎年5月に東京・代々木で開かれる「森林(もり) の市」に展示参加している。会員は自分の都合に合わせて顔を出し、必要に応じて助け合う仲間だ。独自の活動に舞台を移す塾生もいる。顕著な活動が認められて「名誉教授」の証書を授与された人もいる。大工の棟梁、田中文男さんと広島大学大学院国際協力研究科助教授平川幸子さんの二人だ。平川さんは途上国の教育開発計画が専門だが、地球環境に強い関心をもち、森林塾でも論客だった。ほかにも、ユニークな女性の塾生がいる。
 丸山富美さんは今栃木県内の企業で、雑木林をフィールドに子どもヤファミリーを対象にしたレクリエーションプログラムを企画運営している。大卒後すぐ渡豪してマーケットで土産物販売、西表島の民宿、東京で野外活動のNPOスタッフ、福島県の奥会津で役場臨時職員など常に自然と関わってきた。その体験から、四季を通した子どもたちのキャンプ、中高校生の修学旅行に4泊5日から1週間くらいの森林生活を、雑木林で異業種交流会を、新入社員研修は森の中で、そしてもっと各地で雑木林コンサートを、と提案している。

 5年前、文房具のメーカー、コクヨ鰍ナ「環境をキーワードにお客様へ提案を行う」仕事に携わった甲賀広代さんは、初めて「間伐材」という言葉を知り、小澤塾長を訪ねて森林塾と縁が出来た。今では議論を仕切り、会社では木製の新製品開発に忙しい。

 高知県庁の森林局森林政策課木の文化県推進班に属する林業専門技術員の塚本愛子さんも塾生だ。1991年3月、森林行政に携わる全国の女性職員に「手を携えて仕事をしよう」と呼びかけ、豊かな森林づくりのための「レディースネットワーク(LN) 21」という組織を結成した。8年前から。森林の市への参加や森の仕事着の開発など、LN21が独自の企画に着手した時から塾に加わった。
 受験生の頃見た「マックイムシを解明した男達」のテレビ番組に強烈な印象を受け、緑を守る仕事をしたいと高知大学農学部に進学。唯一の林学科女子学生は、男仕事の森の仕事をあきらめきれず、公務員として関わり続けている。地元大学の附属演習林で教官を務める夫と二人三脚の自然派だ。塚本さんは、森林の循環システムの復権をめざし、《木を使うことが森を守ること》を掲げて誕生した森を守る県民会議の活動に取り組んでいる。

 いつでもどこでも、だれでもが、森と森の生活に触れることはできるのだ。
 あなたも思い切って少しだけ、前に進めば、あなたの森が見つかるでしょう。(最終回)(ジャーナリスト)


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