森林随想  植樹と食事、樹医と獣医


最近、東京から2時間ほど離れた場所で開催された全国規模での植樹行事に参加した。
担当の方の親切な案内に誘導されて、1日を楽しく過ごした。
その際、「植樹」という言葉が再々出て来たが、これがどうも聞き取りにくい感じがした。
植樹をする時刻ということで、「植樹時間」と言われたときは、何人かの参加者から、思わず"エッ"と言う声があがった。それは、「食事時間」と言われたように錯覚したからであった。
何もこの時に限らず、「植樹」という言葉については、これまでも再々経験していることではあるが、日本語としては、少し発音しにくい、あるいは聞き取りにくい言葉なのかも知れないと言うことである。
「植林」と言えば、聞き間違いは先ず起きないとは思うが、「植樹」とはニュアンスに違いがあるから、すべて「植林」と言いかえてしまうわけにもいかない。
話は変わるが、「樹木医」という名称は、今では、すっかり定着したと思われる。
しかし、平成2年に、林野庁が最初に、資格認定制度の企画を行ったときは「樹木医」ではなく、「樹医」と言う名称が使われていた(注、樹木医資格の全国版は平成2年企画、平成3年度発足)。
理由は当時、出雲市などで「樹医」という肩書きが公式に使われ、既に活動に入っており、林野庁としては、このアイデアを譲り受ける形で、企画を行ったと言う背景があったからである。
ところが大蔵省(現財務省)に平成3年度予算要求を行う段階で、「樹医」は「獣医」と聞き間違いが起きるのではないかとの指摘が外部からあり、その恐れのない「樹木医」に変更された。
言葉や名前は明確に伝達することを考えるといろいろ難しいところがある。
日本語の発音においても紛らわしい場合がある。テレビのニュースを聞いていても、「ヒ」と「シ」の発音が不明確な場合が、時にはある。
もっと深刻な問題は、外国語学習の際に発生する。
英語学習についてのテレビ討論会を見ても、小学校何年生から始めればよいかとか、週何時間の授業であるべきかなどの話ばかりで、どうも発声法の違いや発音の違いをどのように教えるべきか、或いは何歳位から教えるのが効果的かと言うような議論が聞かれないのは残念である。
このようなことでは、日本人の外国語能力の向上は道のりが遠いと思う。
例えば、外国語学習に当たっての、日本人に共通する問題点は、沢山あるが、分かり易い話として、RとLの発音の問題がある。日本語のローマ字の綴りの、らりるれろ、は、ra ri ru re ro となっており、la li lu le lo は使われていない。
ところが、英語、フランス語、中国語など、いずれの言葉を学ぶにしても、RとLの音が出てくる。しかも厄介なことに、英、仏、中の各言語で話されるRの発音は、それぞれ異なる上に、日本語のRとの決定的な違いは、日本語のRが発声の途中で、舌の先が上あごに触れるのに対して、外国語のRは、舌の先が振動したり、反ったり、舌の奥が上に上がったりするものの、基本的には、舌は上あごに触れないと言う特徴があると思う。
したがって、日本語のらりるれろ、は、むしろla li lu le lo と表記する方が発音としては近い良いようにも思うが、読者諸賢のお考えや如何。
いずれにしても、基本的な分析やトレーニング無しで外国語の学習を行っても効果が上がらないと言うことになる。
対策の一つとして外来語のカタカナ表記の場合、ライス(rice:米)とライス(lice, louse:しらみの複数形)を区別するため、riceはイスとするなどの工夫をして発音の違いを意識するなどの工夫が欲しい。
因みに、森林はフォスト(forest)、樹木はツー(tree)となる。
国際交流が進む中で、外国語の習得は欠かせないが、同時に日本語についての見直しも必要ではないかと、ふと思ったりするこの頃である。
                                      (小澤普照、2005年7月1日記)


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