日中間の国際協力プロジェクトの一環として、2004年12月に、中国北京で2日間にわたり林業生態に関する人材育成のための両国合同のシンポジウムが開催され、筆者も参加した。
日中双方から、講演や発表が行われたが、初日の、中国国家林業局幹部による講演が印象に残った。
それは、日本の対中国ODA政策に関連する事柄であった。
目覚ましい中国経済の発展状況から見て対中国ODA終息の時期が近づいていると言う報道は日本国内のみならず、中国でもなされており、いろいろな反応が現れている。
講演の中で出てきたのは、今まであまり公にされていなかった、他の諸国による森林関係の対中国援助の実態であつた。
すなわち、中国に対し森林・林業について2国間援助を実施している国は、日本以外では、ドイツ、オランダ、フィンランド、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア、韓国、EUが挙げられるという。
中国としては、今後ますます諸外国からの無償援助の獲得に努力をし、低利借款の積極的導入を図りたいとのことである。
日本の動向は、中国あるいは諸外国にどのような行動を示唆することになるのだろうか。
わが国の今後のODAの扱いについては、国益論が顔を出して来ている。
国益論とは何ぞやと言うことである。
また国益論を言う場合、身近な議論もあれば、長期戦略に基づいた議論もある。
同時に国際動向の見極めも大切である。
一方、識者の意見として、国益と同時に地球益を考えるべであるとの声もある。
地球温暖化や砂漠化防止対策に関連する緑の国際協力などは、その最たるものであろう。
さらに踏み込んで考察するならば、国益か地球益かの二者択一論ではなく、両者は互いに密接な関係にあるとも言える。
ところで、緑の国際協力は、後世に残るもの、つまり子孫のために行うこととして価値の高い分野であることは確かであろう。
このため、真に持続する協力を可能にするのは、人間の力に裏打ちされた協力関係である。
お金を軸とする協力は、たとえ緑の協力であっても、お金が途切れるときはある程度トーンダウンすることは避けられないのではないか。
もしODAの削減が避けられないとすれば、なおさらのこと、これからは人間力を傾注する仕組みを一層強化することが望ましい。
相手国及びわが国双方の人材育成と人材活躍の舞台をつくるということを基本的戦略とすることが国益及び地球益を生み出すことに繋がっている。
ところで、今年(2006年)の4月にシルクロードで知られる中国新彊ウィグル自治区を訪問した。
年間の降雨量が20ミリ以下という、いわば無降雨の砂漠地域であるが、今やオアシスの維持や環境緑化に対する地域の熱意には並々ならぬものが感じられた。
今年は黄砂の飛散が多く、全体が黄色っぽく見える。
黄色い砂を手で掻きのけると、本来の褐色の地面が現れた。
黄砂の発生源を見たいと言ったところ、黄砂はモンゴルから飛来するというのが現地の人の言であったが、そうなるとモンゴルの緑化が必要になるわけである。
この地域でわれわれも植林プロジェクトを実行することになったが、既にドイツ及び韓国による植林が実行されているとのことで、今回は韓国プロジェクトの実行地を見せていただいた。
言うまでもないことであるが、植林には水が必要である。この地域では、必要な水は、標高5、6千メートルに達する天山山脈から流れ出す雪解け水が頼りである。
この水を活かすことで、緑を維持し、人が住むことが可能になる。
植林現地には、大人と共に大勢の中・高生も集まっていた。
地域の人達が厳しい自然条件の中で頑張ってくれることを願いつつ現地を後にした。
(2006年6月7日、小澤普照記)
注、本稿は、「国際農林業協力」誌に投稿した原稿に加筆したものである。