京都モデルフォレスト運動の展開
最近の森林をめぐる諸問題すなわち、間伐などの不足や不在村化に伴う管理の低下、竹や外来樹の予定外の増殖、生物循環資源のエネルギー利用などなどを解決するには、結論的に言ってしまえば、傍観者を減らし、行動する人間を増やすこと、さらに行政のみに頼らず地域一体で取り組むことが重要である。
京都府では、4年前から、地域ぐるみで森林の持続を目標とする協働運動、すなわち国際的にはモデルフォレスト運動と呼ばれている総合的な活動を実現するべく準備が進められて来たが、平成18年11月に運動の推進母体となる京都モデルフォレスト協会(理事長・京都銀行柏原康夫京都銀行頭取)が設立され本格的な活動に入ったところである。
ところで、モデルフォレスト運動は地球サミット開催年の1992年カナダに始まり、サミットの会合でカナダ政府から紹介がなされ、筆者も協力要請を受けた一人として爾来各国のモデルフォレストを訪問するなど関心を持ち続けてきたところである。
現在運動は、既に20カ国ほどの国で展開され、国際ネットワーク(事務局カナダ・オタワ)が形成されている。
カナダにおけるモデルフォレスト運動は、世界が目指す持続的な森林経営の実現への具体的戦略を進めること、さらに多様でダイナミックなパートナーシップグループをもつこと、また地域のローカルな価値とニーズに応えることの三点に集約されるものである。
要は、地域の自然や文化などを地域の住民や関係者(企業団体等を含む)が共有しているとの理念のもとで、地域の状況に即した方法で森林の持続を核とした協働運動を展開しようとするものであり、京都では、山田府知事のリーダーシップにより、いわゆる京都流のモデルフォレスト運動の実現を目指して準備が進められた。
京都の特徴は、府下34万haに及ぶ森林は、その歴史・文化を育む母体であり続けたこと、一方、地域を支える知的集積度の高い大学、有力な企業、神社仏閣、さらには温暖化防止などに関心の高い多彩なグループが多く存在するなど自他共に認める要素がある。
このような特性をフルに発揮するため、産・官・学・府民によるパートナーシップのシステムを構築することとなった。
その結果、シャープ、日本生命、オムロン、東芝、村田製作所、島津製作所、サントリー、京セラ、松下電器系列などの各企業の資金的・人材的参加が実現したほか、京都トヨタからは、プリウス一台の売り上げにつき1万円の寄付がなされている。
大学については、森林関係と縁の深い、京都大学や京都府立大学に止まらず、立命館大学、龍谷大学などの各大学の森林・地球環境への関心も高く、大学以外の研究機関も加わることで、それぞれの特徴を活かした連携が期待される。
また、里山などの森林整備のフィールドについては、平成18年4月から施行された府森林条例により、いわゆる不在村森林所有者と府民グループなどとの協定締結が促進されることとなり、条例とパートナーシップ活動との連動が可能となった。
わが国では、はじめてといって良いダイナミックでかつ柔軟な森林をめぐるパートナーシップの形成は、企業・大学に加え、京都らしく神社仏閣、華道、茶道関係、さらにボーイスカウト、ガールスカウト、緑の少年団、林業関係団体などを含む大がかりなものとなるが、効果的に進めるには天王山で行われているような、企業(サントリー)・住民・大学(京大)から構成されるグループ連携による森林整備のあり方が参考になる。
すなわち、各種森づくりやその他の目的で展開される各プロジェクト拠点ごとに、企業・NGO・大学などの組み合わせをつくって活動を展開することが効果的と考えられる。
また、活動の方向は、言うまでもなく、森林整備に止まらず野生獣等自然との共生、地域循環資源の活用(地域材・バイオ資源)、認証等CO2削減対策、人材育成を含む国際交流など広いものが想定される。
従って、活動参加者も全国的・国際的に門戸開放を目指すことが相応しい。
さらに、モデルフォレスト運動の結果、高く評価される事例が出現すれば、行政サイド等でこれを適切に取り上げ普遍化していくことも大切であると考えている。
(2007年4月20日、小澤普照記、筆者はモデルフォレスト協会顧問及び正会員として運動に参加しているところであり、本稿は、森とむらの会会報に投稿したものに加筆したものである)