林業と農業の違いと課題
土地を使って、植物を栽培しているところが共通しているためか、特に人工林については林業と農業は殆ど同じと論じる林学系の学者もおられる。
多くの人は、同じとする論旨を漫然と見過ごしているように思う。
しかし、筆者は、この3年間郷里に開設した、森林環境実践塾(炭焼塾)に通いながら、周辺の農業者の皆さんとお付き合いが増え、いろいろ話をするうちにその違いを感じるようになった。
実践塾の隣家は、水田1.9ヘクタールを耕作する中堅兼業農業者のAさんである。
Aさんは、年齢70歳であるが、ウィークデーは、ある化学工場に勤務する現役で、休日に農業を行っているところであり、奥さんが、田植え時の苗の管理や野菜作りを担当している。因みに息子さんは都市企業勤務者である。
ところで、サンデー農業で2ヘクタール弱の農業を実行できるようになった最大の理由は、農業機械の発達と普及である。
最近、Aさんから、使用中の機械類について詳しく説明していただいた。
所有機械の主なものは、耕耘機、田植機、コンバイン(刈り取り等の複合機)、乾燥機、精米機である。
やや荒っぽい見方であるが、所有機械からもわかるように、農業は栽培(育成)と収穫を同一の人が行っている。
一方、林業は、専ら育成のみを行っている。
それざれの現状を見ると、それぞれ問題を抱えている。
つまり、農業では、農業機械の進歩は目覚ましいが、償却費負担が半端ではない。
上記の機械を買いそろえるだけでも、小型、中古品などいろいろ工夫をしても、一千万円程度は軽く掛かると見て良いだろう。
高性能かつ新品を購入しようとすれば、一台で千数百万円はするようである。
そこで、農業法人などによる大規模経営が出現し、個別農業者は、逐次委託方式に移行しつつあり、この地域では、既に4分の3が委託方式に切り替わったとのことである。
すなわち、農業は収穫まで一貫して行うので、コスト配分など経営に工夫が可能であったが、減反推進の一方、機械償却費や農薬購入費負担などの状況から中堅農業に変化が生じている。
委託耕作が増えて、最も変わった風景は、昨年まで見かけなかった看板が、水田の要所要所に沢山立つようになったことである。
看板の文字を読むと、概ね「農薬7割削減」などと書いてある。
つまり、流通経路の変化が起き、農業法人による生産物直販など消費者直結型の農業生産が増加しつつあるため、都市部から生産現場を見に来る人が増え、PR作戦も積極的になされるようになったということである。
さて林業はどうだろうか。林業は概ね、育成、収穫、流通などそれぞれ別々に行われていることから、最近では、育成部門すなわち森林所有者への配分が極度に低下し、再生産のシステムが成り立ちにくくなっているのが現状といえよう。
農、林いずれにしても、農家の農業離れや畑の耕作放棄の増加、林業の経営放棄の増加などがますます増加し、地方の衰退が懸念される。
何といっても地方に豊富に存在する土地資源や森林空間を有効に使う方法を、都市部と地方一体になって取り組む時が来ている。
食について言うならば、二地域居住や交流による市民農園での食料生産も良い。少なくとも傍観者の立場から、実行者に変わることによって、すなわち自分が作ったものは大事に食べるようになるということで、膨大な食料廃棄物を減らし、実質自給率を引き上げることも可能である。
さて、国土の7割を占める森林空間の活用策についてはどうするか。先ずは、産・官・学・市民・住民挙げての知恵出しと行動が好ましい。
これから伸びると目される石油代替エネルギー関連産業、観光産業などに着目したい。
里山など都市近接森林はバイオマスエネルギー開発や自然との共生、都市部との交流などに適した空間として見直すとともに、急傾斜地が多いとして知恵が出たりなかった林地もむしろ傾斜を活かして太陽エネルギーを取り込む(太陽光発電など)など発想の転換を行うことが考えられる。
地域格差が話題になるが、地域資源や空間の利用格差の解消こそ問題にすべきではないか。これらの観点を含め、新たな森林力分析を進める必要があると考えているところである。
(平成20年10月20日記・小澤普照)
水田表示板
コンバイン・二条刈り
乾燥機