平成17年8月、佐渡島に出かけた。平成6年6月から通い続けて11年になる。
肩書きは、佐渡林業実践者大学学長ということになっているが、移動教室の校長という趣である。
毎年40名の受講生を受け入れ、佐渡の林業関係人材育成に少しでも役立てばということである。
例年8月には林政セミナーを開催しており、学長講演を行うとともに、有益な話をしてくださるボランティア精神をお持ちの講師に講演を頼むことが恒例になっている。
セミナーも無事終了し、翌日佐渡の林業人を訪問した。
行く先は小木港に近い、佐渡市(旧真野町)下黒山で林業を営む椎野太郎平さんである。
水田や畑から小山が立ち上がり、山林になっている。その境目のところに住居がある。
農業も行っておられ、夫婦揃って畑仕事の最中で、スイカが実っていた。
椎野さんは、大正11年6月生まれの83歳という。奥さんは81歳である。
早速、山林を案内していただくことにする。
佐渡の林業といえば、主としてスギ、マツということであるが、現在は、松食い虫の被害が進行し、スギ林業が主力であるが、この地域も他と同様、スギ材の価格も低落し、林業活動も苦労が多い。なお林業関連産業としては、シイタケ栽培行われている。竹資源も多いが需要は僅かになってしまった。
このような状況の中で、椎野さんはアテビに着目した。アテビとは佐渡におけるヒバの呼び名であるが、石川県能登地方ではアテと称していることとの共通点が見られる。
椎野さんは、取り木法によってアテビ苗を育成し、年々アテビ林を増やしてきた。
他樹種も含め現在では、植林地は13ヘクタールに増加しているとのことである。
ところで取り木法というのは、優良な苗木になりそうなアテビの枝を選び、これに苔を巻き付けておくと発根してくるもので、発根後苗木として植林する。
現地を訪問してわかったことは、この苗木づくりは、81歳になる奥さんの仕事だという。
奥さんに聞いたところ、昨年は1500本の苗木を生産したということであった。今年も既に1000本の枝に苔の巻き付けを済ましたとのことである。この実績には、文句なしに感動した。見習うべきことが多々あると思った。
農作業の故か、腰はやや曲がっているとは言え、元気一杯の奥さんを見、さらに夫婦で一緒に林業、農業に勤しむ姿を見るにつけ、最近の十把一絡げの高齢社会論議に白々しさを覚えずにはいられない。
高齢者といっても、正にいろいろである。このように元気で向社会的な活動を続けている方々との協働や支援のためのシステムづくりの必要性を感じた次第である。
さてお住まいの拝見というこでアテビ材の家を見せていただいた。耐久性抜群のどっしりとしたアテビ材住宅は、百年、二百年は十分使用に耐えるものである。
今佐渡では、建築関係者による耐久型住宅づくりの研究会も行われている。
地域材活用運動も、耐久性などの長い目で見た場合のコスト軽減(減価償却費の軽減)効果など具体的な事柄と連動して理解されることが効果的であろう。
またアテビ(ヒバ)には、ヒノキチオールがたっぷり含まれており、シックハウス症候群対策にはもってこいの建築材料である。
このような角度からの、研究の推進やPRをより積極的に行うことは、行政や、大学・研究機関の大事な役割であることは言うまでも無いことであるが、プラス志向の高齢あるいはその他不利な条件を克服すべく頑張っている林業従事者や森林関係者により多くの勇気と元気を与えることになるであろう。
都市部で働いている子や孫の皆さんが、いずれ良き後継あるいは協働人材となることを祈りつつ、元気で頑張って下さいねと励まして辞去したが、これぞ本物の佐渡の林業人に会えたという喜びがほのぼのと心に残った。
(小澤普照 平成17年10月5日 記)
椎野さんのアテビ植林地
取り木の方法で苗木を作る(奥さんの仕事)
椎野さん夫妻と小澤
アテビ造りの椎野さん宅