林業は産業として成り立たないなどといわれだしてから既にかなりの時間が経過した。
筆者が霞が関の官庁に在職していた十数年前でも、その兆候は現れていた。
当時は人工林経営の利回り率の低下ということが問題になっていた。
平成5年度の林業白書では、平成4年度までのスギの造林投資の利回り相当率の推移について資料を掲載しているが、利回り相当率とは要するに何十年かにわたり植林木を育てた後、立木を売り払った時点での販売収入に見合う造林投資(造林費)の利回り相当率を算出するものである。
土地によって条件が異なるため白書では、伊豆天城地方の地位「中」(地味中程度)の林地での、伐期50年として、立木蓄積を、1ヘクタール300立方メートルと想定し、その時々(年次)の山元立木価格(立木1立方メートル当たり)を乗じて販売収入を算定し、一方、造林費用については一般的な造林方法によるものとして算出しているが、これによれば、昭和40年度では、立木販売収入281万円(1ha当たり)、造林費累計18万円(1ha当たり)から、6.3%と利回り相当率を算出している。これが逐次低下し、平成4年度では、販売収入392万円、造林費270万円となり、利回り相当率は、0.9%となった。
その後さらに、立木価格は低下しているため、現在では利回り相当率と言う言葉も殆ど聞かれなくなってしまった。
次に登場してくるのが、立木価格は限りなくゼロに近づいていると言う話である。
立木価格とは、丸太の市場価格から丸太が市場に出るまでのコスト、つまり立木の伐採費や運搬費などを差し引いた価格を言うのである。市場価逆算方式と呼ばれているのがそれで、例えば丸太市場価各が、1立方メートル2万円だとすると、コストが1万5千円掛かったとすれば、山元立木価格は1立方メートル5千円ということになり、これが山元での取引価格になるということである。
ところで実態はどうなっているかということについては当事者でなければ分かりにくいといえる。
ここで筆者自身の体験を若干紹介したい。筆者の郷里は豪雪の名所新潟県の平野部でいわゆる林業地滞ではない。主としてコシヒカリなどの水稲栽培が盛んな地域である。また、車道沿いの平坦地である。ただし冬期間は日本海から吹き付ける強い北西風と吹雪を避けるため多くの家では、昔から屋敷林を維持し、住宅の改築の際は屋敷林の樹木(スギ)を利用してきたところであった。
ところが近年、屋敷林から用材を採取して利用することは、事実上不可能になっていた。
一方、樹木の方は年々生長を続け、いつの間にか直径40cmから50cm以上、樹高も20m以上と見事な景観を形成していた。
ところが一昨年(平成16年)12月に強風が吹き荒れ、樹木が傾くなど住宅を破壊する危険が生じ、町内の樹木は一挙に危険物扱いとなり、我が家の樹木も伐採を余儀なくされた。
なお、数年前から木の根が浮き上がるという状況も出ており、既に1回目は、平成13年5月にA造園に依頼して、スギ15本の間伐を行った。この時の伐採等の経費は、96,000円であった。直径20センチ以下が10本で枝条が比較的少なかったため、ゴミ処理費は12,000円、諸経費10,000円で計118,000円、消費税5,900円を加えて合計123,900円であった。丸太は現場に積み上げ保管をしている。
2回目の伐採は、平成17年春、強風後の危険木の緊急的伐倒として行ったもので、B森林組合に依頼し、伐倒のみ2本(直径27、38cm)で経費17,000円を要した。
3回目は危険度を考慮し、平成17年9月、ケヤキ(60cm)、イチョウ(45cm)、ナラ(43cm)各1本、スギ23本(24〜50cm)、計26本の処理を、C製材所に依頼した。なお枝条(12トン)は敷地内に集積し、利用可能な丸太は製材工場で利用してもらう条件であった。
経費は、伐採・運搬費194,200円、集積費86,000円、計280,200円から木代金として20,000円を差し引いた額、260,200円に消費税13,010円を加えると計273,210円、端数3,210円をカットして、支払い額は合計270,000円であった。
枝条12トンをゴミ処理にまわせば、処理費がさらに上乗せされるが、ゴミ処理は行わず、この中で炭焼き材料として使えるものは使っていく考えである。
以上はあくまで、スギ等の樹木43本の伐採処理の一事例である。
しかし、このような小さな事例からも考えさせられることはいろいろある。
屋敷林ということで枝条を放置散乱させておくわけにはいかず、何らかの処置が必要となる。
車で20分も走れば、山間地に入るが、いわゆる林業地における森林経営の実態についても正確な分析が必要である。
いずれにしても、立木価格は他動的に決まり、かつ低下の一途を辿ってきたことで、林業の魅力が減退した。
最近、CO2の排出権取引との関連から立木そのものに、一定の価格設定を行い、これに伐採、輸送等の経費を加えたものを木材価格として流通させるなどの試みもあるとの話も聞く。代替エネルギーの観点からの価値評価なども考えられる。
もちろん建築資材として利用する場合でもウッドマイレージ型の発想で新たな価値を見いだし、育林者にメリットを還元する方法もあろう。
各地域での新しい取組が望まれる。
(小澤普照 平成18年1月17日 記)