講演要旨
21世紀の提言 −年金と保険(高齢化社会関連)−
プロローグ
個人的体験としての年金、保険に対する意識の始まり。
年金。社会人となってライフワークのテーマ設定確立の期限を年金の資格取得の20年(当時)としたこと。
保険(及び貯金)については、昭和20年8月9日、満州(現中国内蒙古自治区海拉爾市)でのソ連軍侵攻の日の体験(当時小学5年生の講師が空襲で燃えさかる街の中を唯一人走り抜け母親が持ち出し損ねた保険証書や預金通帳を手にして日本人集合場所に無事合流するも、証書はすべてただの紙切れとなるという話)。
さて今や、年金・保険は時事問題の中でもトップ課題の一つ。
年金問題
最近における年金問題とは、国の年金つまり公的年金は破綻するのではないか、企業年金の運営に問題が生じているようだ、あるいは今の若者が高齢者になる頃は年金がもらえなくなるのではないかというような不安が広がっているということである。
また一方、定年を間近に控えたサラリーマン等が定年後の生活設計を行う上で年金対する知識を求めているということがある。これは、年金のシステムが複雑になり理解しにくくなったということが裏側にある。
年金の仕組み
公的年金
公的年金は国の社会保障政策として行われている。全員参加の考え方に立つ。「世代間扶養」を基本的としている。相互扶助の考え方、つまり働き盛りの現役世代が、第一線を退いた世代のために年金原資としての保険金を負担する仕組みといわれている。
国民年金
被保険者は3分類。第1号被保険者 自営業者、農業従事者、学生。平成9年3月現在の加入者1936万人。保険料は定額。10年度は月額13,300円。11年度は14,000円。
第2号被保険者 サラリーマン及び公務員。国民年金の被保険者であると同時に、厚生年金あるいは共済年金の被保険者でもある。3882万人。国民年金保険料は厚生年金または共済年金制度で負担するため、本人はそれぞれ所属の年金制度に保険料を納付(給与から天引き)する。
第3号被保険者 第2号被保険者の被扶養配偶者。約1202万人。国民年金保険料は厚生年金、共済年金のそれぞれの制度が負担するので被保険者は納付しない。被保険者になるには市区町村に届け出る。
なお上乗せ年金として、国民年金基金がある。
厚生年金
保険料は月給の17.35パーセント。給与に比例し、事業主と折半で負担する。なお給与は標準報酬月額(毎年5月〜7月に実際支払われた平均賃金を9万2千円から59万円までの30等級に分けられる)を算出して決められた額となる。保険料は、現行制度では5年ごとに2.5パーセントずつ引き上げていき、最終的には年収の27パーセント程度(月収の35パーセント程度)ということになるが、1999年に行われる財政再計算と年金制度改革を控えての論議の結果、厚生省案(3案あり)では、3案とも、ボーナスを含む総報酬制を導入し、11年度(10月から)を19パーセント、以後5年ごとに2パーセント、2025年に年収の20パーセント、月収の26パーセントになる案となっている。 なお現行では、ボーナスからも事業主と折半で1パーセント徴収されているが、これは給付とは無関係。
さらに上乗せ年金として厚生年金基金がある。
共済年金
保険料を掛金と称しているが、考え方は厚生年金と同様である。
なお、職域年金としての給付が上乗せ部分と解されている。
給 付
年金の給付は、老齢に達した場合の老齢給付のほか、障害者になったときの傷害給付及び遺族給付がある。
一般的には老齢年金を受給することになる。昭和61年の年金改革により、すべての人が国民年金に加入しているので、いわゆる1階部分の、基礎年金は共通の考え方に基づいて給付される。給付額は国民年金のみに加入していた人の場合、20歳から60歳までの40年間欠かさず保険料を納付したとして、65歳以降、年額79万9500円(平成10年度満額のケース)なる。厚生年金あるいは共済年金加入者には基礎年金のほか、65歳以降は老齢厚生年金あるいは退職共済年金が支給される。なお60歳から64歳までの間、厚生あるいは共済年金加入者には特別支給の老齢年金あるいは退職共済年金の支給制度があるがこれらは他の収入がある場合は一部支給が停止される。
なお特別支給の措置は旧法時代の受給者との調整措置として設けられているもので、今後平成13年度から平成25年度までの間に3年ごとに1歳ずつの割合で支給開始年齢が引き上げられていくことになっている。
企業年金
公的年金を補強するシステムとして企業年金がある。その代表的なものが厚生年金基金と税制適格年金である。
厚生年金基金
代表的な企業年金である。公的年金である厚生年金の一部を代行給付するするとともに、企業や団体独自の年金給付を上積みして、国よりも手厚い給付を実施する狙いで設立される。全国約1900の基金があり、サラリーマンの3分の1にあたる約1200万人が加入している。資産総額約45兆円。しかし最近の資金運用環境の悪化の影響を受け、運用利回りが低迷、あらかじめ見込んでいる年率5.5パーセントの利回りを達成できず財政の悪化に悩んでいる。将来の年金給付に必要な年金資産を割り込む状態になっている場合が多い。
形態としては、大企業一社の単独型、グループ企業でつくる連合型、中小企業が集まってつくる総合型ががあり、それぞれ約600基金。積み立て不足の基金約500のうち、366基金が総合型であり、対策として都道府県をまたがる広域統合再編を進めるほか、200年四月から企業が他の企業と合併するときは、年金資産を新会社の基金に引き継ぐことを認める。
税制適格年金
この仕組みは、企業の退職一時金を年金化するものである。従業員にとっては退職後の生活安定、企業にとっては、退職金負担の平準化と掛け金の損金算入がはかれるメリットがあるとされる。小規模企業でも独自に設定可能。積立金の1パーセントに特別法人税がかかる。実施について一定の要件を満たしていることについて国税庁の認可を受けることから税制適格年金と呼ばれる。
企業が保険会社と契約して従業員を保険金受取人とする。事業主とその家族、役員(使用人兼務は別)は受取人になれない。退職金の年金化のように企業の単独拠出の場合は強制加入制、従業員拠出がある場合は任意加入。有期年金、終身年金のいずれの年金設計は可能。有期の場合、10年〜15年とするのが一般的。
保 険
我々の経済生活は無数の危険に取り巻かれている。危険対策の第一歩は危険の防止あるいは回避であるが、保険は危険の現実化により生じる経済的損失、負担を軽減、回復するという意味を持つ危険対策である。
貯金と保険 貯金は三角、保険は四角。
保険の対象となる危険の条件は二つ。発生の防止不可能なこと。個体としての発生頻度の変動幅が大きく、予測が不可能。
保険が成立するのは、同様な危険を多数引き受けることにより、危険発生の変動幅が縮小し、平均経験率を得ることが可能となる。確率論における大数の法則に基づくものである。
生命保険は、「人の生死に対し一定の金額を払う」(商法第673条)こと。
危険は、死亡危険、災害・疾病危険、生存危険 の三種。
生存危険とは、生存することによって経済的損失を引き起こす危険をいい、これに対応する保険契約としては一定期間後の一時金給付あるいは年金給付がある。
死亡保険は相続人が言い出し難い点があるため、窓口販売が難しく、訪問販売(door
to door sale)という特色を生む。
死亡保険への対応は死亡率が基本となるが、これは年齢と共に増加する。生存危険は、一定期間経過後に生じるとするのが一般的である。それ故、これらの保障は契約期間の後半に偏るため、平準保険料対応による積立金の発生が生じ、金融機関としての機能を併せ持つのが生保事業の特色。生保の代表商品としての死亡・生存危険対応を併せ持つ養老保険の保険の普及が金融的地位を高めたとされる。
なお、生保の契約が人の生死に対し一定の金額を支払うことを約し、相手がこれにその報酬を与えることを約す契約であることに対し、損保契約は、偶然なる一定事故により生ずることあるべき損害を補填することを約し、相手はそれに報酬を与えることを約すもので、「実損填補」が契約の特色となっている。
生保商品の基本型 死亡保険(定期、終身、定期付き終身)、 生存保険(満期生存のみに支払う純粋型は殆どない、年金保険は特殊な形)、生死混合保険(
主な保険商品
個人保険
定期保険 5年、10年など一定期間内の死亡事故保障、 保険料低廉、 死亡後の家族の生活保障に適、 契約更新時保険料のアップに注意
終身保険 終身払い込み 有期払い込み 一括払い込み 貯蓄性あり
定期付き終身 利用者多いが、保険知識、チェック必要
養老保険 典型的な生死混合保険、 保険期間と保険金額が同一の死亡保険と生存保険を組み合わせたもの、 死亡保障と貯蓄機能を持つ
個人年金保険 生存保険の満期保険金を年払いとしたもの、 高齢化社会型、 夫婦二人を被保険者としいずれかが生存する限り年金を支払う連生年金がある
このほか財形貯蓄保険、財形年金保険など多数あり。
なお、入院特約などの各種特約がある。
団体保険
集団を原則、1契約多人数、無審査一括契約などが特徴。割安になる。
団体定期保険 期間は1年、会社負担保険料は損金算入
団体終身保険 従業員の退職後の死亡保障
団体養老保険 団体所属員の死亡保障及び退職金準備
企業年金保険 退職後一定期間あるいは生涯の年金支給
厚生年金基金保険 厚生年金の報酬比例部分を企業年金で代行、厚生年金と企業年金の両者の機能・保険料を調整する目的があるため調整年金ともいう
国民年金基金保険 国民年金の上乗せ給付を目的した年金保険
最近の年金論議や問題点
確定拠出型年金をめぐる論議
従来我が国では確定給付型の企業年金が定着していたが、予定利率5.5パーセントを上回る運用が困難となり、現在の2〜3パーセントの運用では、差損を企業が埋める、掛け金をあげる、約束した年金額を引き下げざるを得ないというような事態となりつつある。 そこで米国での確定拠出型年金の実態などが注目を浴びている。
厚生年金と不況
中小企業などで厚生年金の事業主負担ができなくなり、未納あるいは脱退などの問題が起きているとの報道がなされている。
国民年金
保険料未納者の増加が問題となっている。免除者も含めると約3分の1が保険料未納といわれている。
保険料納付の年齢を現在の20歳からを25歳から65歳までの40年間としてはどうかとの意見もある。
財源問題
平成7年度の厚生年金の積立金は132兆1952億円。年間給付費の5.7年分に相当するものである。しかし今後を見通すと支払い余裕を示す積み立て度合い(当年度支出に対する前年度末積立金の倍率)は、2000年が5.0年、2010年が3.7年、2020年で2.9年まで落ち込むと見られている。
国民年金のゆとりは非常に低く、平成7年度で積立額は8兆9132億円で年間給付費の2.7年分となっている。
企業年金制度をめぐる課題
私的年金制度についての課題として、インフレーション、公的年金との調整、被保険者の範囲、高齢従業員の取り扱い、受給要件の適正化とポータビリティの確保、支払い能力の確保、税制上の問題点、各年金制度間の法的整備などが挙げられる。
21世紀に向かって
あくまでポジティブに定年文化と生涯現役文化のベストミックス社会を実現し、高齢 化社会問題解決の糸口としたい。
定年族は定年文化の樹立を
生涯現役族は21世紀への社会貢献哲学の探究を