子づれDE海外滞在記 1 | スウェーデンその1 |
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昨年(1998年)10月と11月の2カ月間、修士論文完成のご褒美として、1歳6カ月になる息子燎平とヨーロッパに滞在した。スウェーデン、イギリス、チェコ、スイスの4カ国を、主に友人宅に滞在させてもらいながらの二人旅であった。今回の旅では、大切な友人達に久しぶりに再会したこと、友人宅にいわばホームステイの形で一週間単位で滞在し、ツアーや個人滞在にはない体験ができたこと、子どもがいることによってそれぞれの国の文化と生活を多角的に感じられたことが、私の人生でこれまでにない感動を残してくれた。 最初の目的地スウェーデンでは、10年前にアメリカ・カリフォルニア州での語学留学以来の文通友達シーラに会いに行った。あの頃の、金髪ロングカーリーヘアで美しいブルーの瞳を持つシーラが、今も目に焼き付いている。しかし10年ぶりに会ったシーラは、瞳はもちろんブルーだが、髪は赤毛であった。後で聞くと、やはりアメリカではほとんどの若い女の子は金髪に染めたがるのだそうで、シーラも同化していたらしい。 幼い頃に両親が離婚したのを見て結婚に慎重になっているシーラは、現在彼と同居中であるが、結婚はまだ先だと言う。しかし結婚前に「お試し期間」として同居するのは、スウェーデンでは当たり前だそうだ。日本では、結婚前に彼と旅行に行くのもモラルに反するとする親が多いことや、結婚退職や出産退職がいまだに多く、結婚したら男性に養ってもらうことを希望する女性が少なくないこと等を話すと、シーラとその彼ジョンの日本に対するイメージがますます悪くなったようだ。 スウェーデンは世界でも有名な福祉国家である。身障者が専用の大きなワゴン車に手厚く昇降させられている場面を何度も見かけた。コンピュータシステム会社社長秘書であるシーラと船会社を経営するジョンは、「高所得者の税が高く、一生懸命働いた見返りが少なすぎる。それに対して低所得者は、働かないのに国の財政的補助を受け取っている。これでは能力のある者は海外へ出ていってしまう」と、現在の政策には真っ向から反対している。アラブ系や黒人の移民を無条件に受け入れてきたため(最近では厳しくなったとのこと)、治安の問題も起こっている。ホテルのルームクリーニング担当はタイ人女性だった。そういえば、日本やアメリカなどの資本主義の国では「人間性悪説」の立場をとっており、スウェーデンでは「人間性善説」の立場をとっているのだという話をきいたことがある。 しかし、さすが出産・子育てについての国家政策にはシーラも文句はないようで、出産後3年間は国から収入とほぼ同額が支給されると言っていた。日本のように会社によって産休制度や手当がバラバラなのとは大違いである。スウェーデンでは、1960年頃から急激に男女同権が進んだそうだ。今では堂々と「専業主婦です」と言うことすら恥ずかしい状況にあるという。 シーラによると、スウェーデン人は合理的である。こうした方がより良いと思われることは、すぐに法律・規則化して皆で守ることを好む。車のチャイルドシート着用義務、自転車でのヘルメット着用義務、仕切られた車道・人道・自転車道などがその例である。それに、環境配慮は厳格である。プラスチックのペットボトルはビンのように硬くできており、約280円のものに80円のチャージがかけられ、店に返却すると全額戻ってくる。また買い物袋は紙製が主で一枚が大変高く、小さな店では袋は用意されていない。日本のようなスタンプ20個で100円の効率では、意識が高い者しか買い物袋は持参しない。これくらい個人に経済的インセンティブを与えるような方法に、日本ではなぜ切り替われないのだろう?ルール作りの面では、日本は市場にまかせた「性善説」に立ちすぎではないか。 ところで燎平は、子どものいないアーバンライフをおくるシーラのアパートではおもちゃが見つからず、台所用品やインテリアを触りまくり、とうとう約10万円もする思い出のランプを割ってしまった!結局弁償することになったが、所得に対して物価の高い国なので、永年の友情が冷えてしまっては…と、青くなる思いがした。 その上、シーラのアパートを出る前日、燎平の目覚まし時計用スモール電池飲み込み疑惑が発生した。どこを探しても電池が見当たらないのである。その晩は良く眠れなかった。 |