No03.保留地


高額な買い物に、悩んだ珍の結論は・・・。


週末の土曜日、運良く天候は晴れ。
申込み中の土地を見に来ていた。
この土地を買うことに決めれば、売り主との契約は、日曜日である。
契約前に、いのさんから、この土地の調査結果と重要事項説明を受けることになっていた。
基本的に契約を前提に、いのさんは動いている。
珍としては、非常に心苦しかった。
仲介手数料は、売買契約が成立しないと、受け取ることが出来ない。
つまり、ここで珍がこの土地の契約をやめると、今までの調査が無駄になり、
いのさんは、一切報酬がないのである。
いのさんとの打ち合わせは、夕方である。
調査に夕方まで時間が必要だと言うことで、夕方なのである。
時間いっぱいまで、手抜きのない調査をしようという事なのである。
珍は、いのさんとの打ち合わせまでに結論を出すべく、
車を止めて、この土地と、周辺環境を見るために散策をしていた。
この周辺は、比較的新しい分譲地で、綺麗に区画整理されていた。
中学校、幼稚園、保育園も大きな道路に隔てられることなく、区画内にある。
コンビニや、ショッピング施設が駅前にしかないことを除けば、
問題らしい問題はなかった。
しかし、やはり腑に落ちない。
雰囲気は相変わらず悪かった。
この土地に家を建て、一生暮らしていくというイメージが湧かない。
引っかかっている理由はそれだけである。
そんな、当てにもならない第六感のような理由で良い訳がない。
いのさんに、[契約をキャンセルする]と珍が言う事は、
今までの調査を無駄にしてしまう事を意味する。
いのさんには事前に、[キャンセルしても、何もペナルティはない。]
と、珍に言ってくれていた。
だが、そのいのさんの一言が、珍にキャンセルすることを余計に躊躇させた。
日も高くなったので、食事をすることにした。
食欲が満たされて、腹ごなしにさらに周辺を歩いてみた。
土木建築事務所の様なプレハブの建物が目に入った。
[土地区画整理組合]と看板に書いてある。
中に人影が見える。
珍は、今検討中の土地の話でも聞こうと思い、中に入った。
土木建築事務所とは、ちょっと違うらしい。
とりあえず、あの土地の履歴を聞いてみた。
[造成される前は畑だったよ。]
少なくとも、沼や池ではなかったらしい。
一通り、あの土地について質問が終わった後、対応してくれた人から、
[土地を探しているんだったら、ここでも販売しているよ。]
[えっ?]
土地区画整理組合というのは、この分譲地を造り、販売している団体だったのだ。
中に案内されて、説明を受けた。
ここで、販売されていたのは、保留地と言うものだった。
お茶飲みながら紹介された、売れ残りの土地は、2カ所。
いずれも、3000万円を大きく超える価格だった。
珍は、[予算外だな。]とあきらめて、丁寧に断ってその場を後にしようとした。
すると、入口にスーツを着た小太りのどこかで・・・・いのさんがいた。
[おー!いのさん!!]
珍は思わず大声で声をかけた。
いのさんも、ここに調査情報収集に立ち寄ったのだった。
土地区画整理組合を出て、珍は唐突にいのさんに言った。
[キャンセルします。]
珍の結論だった。
明らかに、いのさんの顔色が変わった。
少し攻める様な口調で、いのさんに理由を聞かれた。
珍は感じたとおり、[雰囲気が良くない。]と答えた。
そのときに、どんな問答をしたか良く覚えていない。
いのさんも、珍も、少しアツくなっていたのだ。
いのさんは、言葉に具体的には出さないが、
[こんな掘り出し物は二度と無いのに、どうしてキャンセルするんだ!]
と、その表情が物語っていた。
[それでは、売り主にキャンセルを伝えます。]
いのさんの白のスカイラインが、凄い勢いで走り去るのを眺めながら、
珍は申し訳ない気持ちで一杯だった。
そして、今日の調査結果及び重要事項説明の打ち合わせは無くなった。


今日のひとこと ★


土地に掘り出し物はない。は真実だと思います。
あるかも知れませんが、特殊な条件(訳あり)だったり、
一般的な取引の場に出る前に売買が成立してしまうのでしょう。
ですが、今回、出てきた土地は、
JRと京王線の駅までどちらも歩いて10分以下。
33坪で南西側接道6mで2500万円でした。
今、考えても、掘り出し物には違いありません。
地盤改良は必須だったと思われますが、(畑に盛り土だった様です)
通常考慮されるべきなので、特に購入をためらう理由はにはなりません
安く出る、と言うことは、土地に問題が無くても、売り主に何か別な事情があるかも知れません。
もともと、事情がなければ、土地が売りに出る事はないのですから。

勘違いしないでいただきたいのは、
土地には掘り出し物がないからと言って、
相場よりも高いお金を払う必要はありません。
これは、家康不動産のように、信頼の置ける不動産屋に
仲介に入ってもらえば防げる問題だと思います。