第11号 会話がない                                                                           
                           

今、会話がないという理由で離婚する夫婦が増えているそうだ。
「離婚したい」という妻からの申し出に「なにが不満なんだ」とめんくらう夫。
「別にあなたに何をされたってわけじゃない。でも、あなた、ちっとも真面目に私の話を聞いてくれないじゃない。」

昔、「会話がない」なんて理由で離婚する夫婦はいなかったそうだ。
お家制度と世間様に縛られた安定した結婚生活に、夫婦の会話なんか必要なかった。正しい日本人の価値観は只一つ。良妻賢母と立身出世。だから、誰も迷わなかった。お父さんは黙ってサッポロビールを飲んでいればよかった。お母さんはかいがいしく家事に精を出していればよかった。自分らしさなんか求めないとき、人は案外楽に生きられた。


今、妻たちは形の安定よりも心の安定を求めている。形の安定しか求めていない夫に妻のいうことはわからない。家政婦か娼婦としか妻を見ていない男に妻たちの心は読めない。
離婚が増えて、家庭が壊れるのを見て、「今ほど愛のない時代があったでしょうか。」なんて叫んでいる偉い爺さんの本を読んだことがある。じゃあ、昔は愛に溢れていたというのだろうか。浮気は男の甲斐性なんて男が威張っていた時代に愛など感じていた女がどこにいると思っているのだ。ジジイ、勘違いもいい加減にしろ。
今、離婚する夫婦は人生に真面目だ。愛のない夫婦を続けていけるほど、不真面目じゃない。だから、愛を求めて別れるんだ。会話がないから別れるというのは、そういうことだ。

                                    

「僕たち仲良し離婚なんです。」
という人の話を聞いたことがある。私が「夫婦喧嘩は日常茶飯事」と言うと、彼は「うらやましい」と言った。
「喧嘩をしたことがなかった。ただ、根本的なところで意見が合わなかった。だから、別れた。一緒に暮らしていて不満に思ったりすることはあまり口に出さなかった。妻になにか言われれば適当に受け流して、ほとぼりがさめた頃、ちょっと言い返してみたり、引っ込めたりしていた。喧嘩しないことが妻に対して寛容だと自負していたけど、今思えば、妻と真正面から向かい合っていなかったなあ。」
と、言っていた。

喧嘩しないで、ずっと仲良く楽しく暮らせる夫婦がいるなら、それは最高。
でも、生まれも育ちも価値観も違う者同士が一緒に暮らすのだから、葛藤が生まれるのは当然。
喧嘩しながら成長していくのは、子どもだけじゃない。夫婦だってそうだと思う。

妻の叫びに気づいていない世のご主人方、妻の心に気づいてあげてください。
例の文京区の主婦だって、夫婦の会話がもっとあれば、あんなことしなかったかもしれない。

                           

TOPへ 会報一覧表へ 前ページへ  次ページへ