第12号 気合いママは苦手
                    

                                  

某公園のトイレでの出来事です。
「ハイ、ズボン下ろしてえ。」
「シーシー、出ましたかあ。」
「お利口ですね。」
「手を洗いまーす。」
「では帰りまーす。いちに、いちに、・・・」
ママの元気あふれる号令とともに2歳くらいの子どもはトイレを去って行きました。
張りのある威勢のいい声。さわやかな声かけ。
教育熱心で、しかも子育てを楽しんでいる明るいママの声。
とにかく、子育てに気合いが入っているんです。
私は見ているだけで、自分のエネルギーを吸い取られていくような寒さを覚えたのでした。

そんなタイプのママには、以下のような特徴があります。
      1、声がでかい
      2、よくしゃべる
      3、すぐほめる
こんなママが私は、はっきり言って苦手です。

             

横浜のこどもの国での出来事です。
こどもの国には牧場があって羊や山羊がいます。
「羊だよ。羊だよ。メエーだって、啼いてるね。かわいいねえ。草食べてるよ。おいしいなあ。もう一匹来た。こっちのは、ちょっと小さいね。ほら、またメエーって言ったよ。」
と、解説しっぱなしのお母さんがいました。おめえは元実況中継アナウンサーかっつうの。
声はベターっと、ねばりついたようなダミ声。必要以上に声がでかく、言うことがやたら押しつけがましい。
子どもたちの声は一つも聞こえない。
ああまくしたてられたんじゃあ子どもたちは、ゆっくり羊とたわむれる暇もない。
子どもたちのエネルギーをすべて吸い取っている、気合いママの一人舞台。

羊がいたって黙って歩いていればいいんです。
うちの子は、羊を見て
「これ、羊だっけ?山羊だっけ?」
と、言いました。
「オメーねえ、何度羊見てんのよ。」
と、心で思いつつ、
「羊だよ。」
とのみ答える。そのうち、「ベエー」と、羊が大きな声を出す。
子どもたちはその声がおかしくって、大笑いして、「ベエーだって。」と、まねしている。そのうち、
「えさやろう、えさやろう」
と言い出し、自分で草をむしって羊の口へ持っていく。下の子はこわくなって泣き出す。


                             

牧場を過ぎ、小動物園で遊び、アスレチック公園へ向かっていると、さっきの気合いママに出くわしました。
ママの元気なダミ声が聞こえて来ました。
「兎がいたね。りすもいたね。ポニーもいたね。楽しかったね。なにが一番楽しかった?」
気合いママが突然質問体制に入りました。
「えっ、○○ちゃん、なあんにも楽しくなかったの?」
問いつめますが、子どもは一向に答えません。すると、
「アヒルが泳いでいたでしょ。ロバにえさやったでしょ。」
と、声があらげてきます。おそるおそる子どもは小さい声で「ロバ」と答えました。
「ロバ?かわいかったものねえ。○○ちゃんはロバが楽しかったんだあ。」
これで、この子はきょうロバが一番楽しかったことになってしまいました。
その子は本当にロバが一番楽しかったんでしょうか。
ロバの面が一番気持ち悪かったのかもしれないし、ロバの顔さえホントは思い出せもしなかったかもしれない。でも、彼は、母の精神を安定させ詰問から逃れる方法を知っていた。
「ロバ」
と、答えることで、ママはこれ以上質問しなくなる。そして、ママはホッとする。

そのうち、トイレが見えてきました。50メートルも先なのに
「お母さん、トイレに行って来るから、待ってるんですよ。」
と、予告している。私たちがちょうどトイレの前を通りがかったとき、トイレの中から気合いママの声が聞こえてきたんだ。
「ちゃんと待ってなさいって言ったでしょ!!待っていられない子はもう連れて来ませんよ!!」
オイオイ、そりゃないぜ、おかあさん。
どっか遠くへ行っちまったわけじゃないのに。見えるところでうろうろしていただけなのに。
自分がトイレに入っている間くらい、子どもの行動制限しなくていいのに。
遠くへ行ってしまったり、車にはねられたりしてんじゃなければ、なにしていようといいじゃありませんか。
そんなに行動制限したけりゃ、チョークでも持って行って、地面に足型かいて、「ここに立ってろ」って、指示しておけばいいじゃないの。

アスレチック公園につくと、気合いママは元気いっぱい子どもを励ましていました。
滑り台から滑ってるだけなのに、
「うまーい」
「すごーい」
と、ほめまくっていました。
うちの子たちは、もうどっか行ってしまって見当たらない。親なんかにほめられなくたって、十分楽しい。

4時半閉園のため、私は4時過ぎると、帰り支度を始めます。いきなり帰るというと、ショックが大きく文句を言うから、前もって予告しておきます。
「もうすぐ、閉園の時間だよ。あと5分遊んだら、トイレに入って帰ろう。」
帰るための指示はそれでOK。

だが、あのママはこうであった。
「もう帰りますよ。早く帰らないと○○ちゃんたち遅いなあ。どうしてるんだろうなあってパパがさびしがるよ。パパがさびしがったら、かわいそうでしょ。だから、もう帰りましょう。あと一回だけですよ。」

違うだろう!!と、私は言いたい。
どうしてここでパパ持ち出すんだよ。公園の規則に従おうというだけでいいんじゃないの?

気合いの入ったママにはかなわない。見ているだけで疲れてしまう。こんな嫁さん持ったご主人、口ききたくなくなるだろうなあ。


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