★第15号★

  真夏の夜には・・・



これは夫の友人・山本さん(仮名)の話

彼は都内で開業している歯医者さんだ。
ある日、定例の歯科医師会へ行った。
会合は3階で行われる。
1階のロビーで彼は知り合いのA先生に会って簡単な挨拶をした。
3階での会合が終わったとき、彼は知らせを聞いた。
Aさんが、家を出る直前に倒れ、亡くなったというのだ。
山本さんは、しばしその話が信じられなかった。
「そんなことあるわけないですよ。
だって、私、さっき、下で彼と話をしたばかりですよ。」
いくらそう言っても、誰も信じてくれなかった。
誰もが「見間違えだろう」と言う。
でも、山本さんは、絶対にAさんと話したつもりだった。
ちゃんと見えたし、ちゃんと声も聞こえた。
自分も声を出して話した。
まさにそのころ、Aさんは自宅で息をひきとった。

山本さんは、もともと霊とか魂とかを全く信じないタイプの人だった。
でも、今回のことは、どうにも納得がいなかなった。
で、お化けの話とかを根っから信じない夫に電話をかけてきた。
なのに、夫までもが一緒になって
「こわいよ〜〜〜、そりゃ〜〜〜」
と言い出した。
で、二人の間で、山本さんとAさんは確かに話したんだろうということになった。



私が、この話を幼稚園でしたら、87歳の学園長先生がおっしゃった。
「私もね、若いころ、そんなことあったのよ。
私がお風呂に入っていたらね、お風呂場の窓のところに近所の男の子が立ってるの。
あれ、どうしたのかなと思って、おいでおいですると
すーっと、私のそばに来て、なんにも言わないで、さーーーっと向こうへ行っちゃったの。
そしたら、そのあと、その子が亡くなったって聞いたの。
あ、会いに来てくれたんだなと思うのよ。」



私の父がよく言っていた。
父のおばあちゃんの話。
朝、家族が目を覚ましたら、「おヨシちゃんが死んだよ。」と突然言った。
そのうち、おヨシさんの訃報が入った。
みんなが不思議がって、「ばあちゃん、どうしてわかったんだ」と尋ねると、
「夜中に雨戸がドンと大きい音を立てたから、すぐにわかった。
ありゃ、おヨシちゃんの魂が、あたしんとこへ知らせに来たんだ。」
おばあちゃんの話は説得力がある。
なぜって、おばあちゃんはおヨシさんの知らせと固く信じているから。




子どもが誰もいない部屋でしゃべっているという話もよく聞く。
おかあさんには見えない誰かと、こわがらずに話している子もいれば、
あるいは、こわがっている子もいる。



ところで、歯医者の山本さんは、最後につぶやいた。
「でも、天国へ行く前に一人の人としか話せないとしたら、
オレなんかと話しちゃってよかったのかしらん。」



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