第19号 正しい家族
私たち夫婦の関係が良くないとき、
私は、よその家族を見るのがイヤだった。
みんな幸せそうには見えなかった。
だから、見たくなかった。
ワゴン車の後ろから、
どこかのお父さんがA型ベビーカーを出していた。
3つくらいの男の子がお父さんのまわりを走り回っていた。
赤ちゃんを抱いたお母さんが、ゆっくり車から出てきた。
二人目が生まれたころが一番危ない。
この夫婦は暖かい愛に包まれているのだろうか。
私は、冷たいものしか感じることができなかった。
みんな、みんな、不幸に見えた。
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私は家族になにを望んでいたのだろう。
結婚しても子どものいないときは家族じゃなかった。
恋人時代と変わらなかった。
唯一変わったのは正々堂々と同じ家に帰れることだった。
ホテルに行ったのがバレタって、
「まあ、仲のよろしいこと」
で、終わるのがうれしかった。
子どもが生まれた。私は母親になった。夫は当然父親になるものと思っていた。
しかし、それは私の幻想だった。
夫は確かに父親ではあったし、子どもをとても可愛がってくれた。
育児を楽しんでもくれた。
でも、夫は妻の母親埋没にうんざりした。
夫は私とずっと恋人でいたかった。
私は夫が父親でいてくれればそれでいいと思った。

私のイメージしていた家族像、それはおそらく、「インガルス家」だったに違いない。
「大草原の小さな家」のインガルス家、ご存じですか。
貧しいけれど、心豊かに育っていく子どもたち、そして愛し合う夫婦の姿。
TVでこの番組を見るたび私はいつもお父さんに感動していた。
もしかして、私はインガルス家のお父さんを自分の夫に求めていたのかもしれない。
インガルス家のお父さんとは、こうだ。
・よく労働に励み、たくましくて頼りがいがある。
・家族のことを第一に思い、家族を守り、家族とともに人生を楽しんでいる。
・妻にやさしく、命令的でなく暴力的でもない。
・迷っている子どもには、人生の指針を示し、悲しんでいる子どもには抱きしめ、そっと受け止めてくれる。
・村人からも深い信頼を得ており、村のためにすぐ行動を起こす。
・自分の欲望のために家族に迷惑をかけるなんてことはありえない。
「アメリカのお父さんって、すごいなあ。」
と、思っていた。大人になって、いくらアメリカのお父さんでも、みんながローラのお父さんみたいってわけじゃないんだと気がついた。さらに、自分が家族をやってみて、やっと知ったことがある。
「こんなお父さん、いるわけない。」
「私の父はそうだった。」「私の夫はそうだわ。」という人がいたら、ぜひ教えてほしい。私すぐに拝みに行くから。
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バスで子連れの家族を見ても、なんか不幸そうでイヤだった。
あからさまに口喧嘩している家族もいた。
夫婦がお互いに子どもの世話だけ焼いて、二人は20分間、一言も話さないなんていう人も見た。
みんな、みんな不幸に見えて、
見てるだけで自分まで不幸な気分になった。
自分のイメージを押し通すのをやめて、
喧嘩に喧嘩を重ねて、私たちは少し利口になった。
どう利口になったかわからない。
前より、もっとバカになったのかもしれない。
が、なんだか、このごろ、それほど不幸じゃない。
よその家族も幸せそうに見えるようになってきた。
私たちは相変わらずよく喧嘩はしてる。
でも、私は喧嘩が好きだ。
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最近、再放送で「たけしくん、ハイ!」をやっていた。
有名な北野武の子どもの頃を回想した物語だ。
これを何故だか娘が痛く気に入り、毎週楽しみに見ていた。
たけしくんの両親は、林隆三と木の実ナナが演じていた。
ふたりは年中、夫婦喧嘩をしていた。
ふたりが景気のいい取っ組み合いの喧嘩をしたとき、娘が言った。
「お父さんとお母さんみたい」
娘にどんなトラウマを与えているのだろうと心配しつつ、
私はこういう夫婦は面白いと思った。
正しい家族、そんなものはない。なりたい家族になればいい。