第36号  靴磨き

近藤典子先生をご存じですか。

ある主婦向けサイトの掲示板で
「近藤典子さーん、うちに来て!!」
と叫ぶ発言があった。
近藤典子さんて誰だろう。
そう思いながら、その発言を開いて読んだ。
「片づけても片づけても、どうにもならない我が家。
近藤典子さんうちに来て!片づけてチョウーダイ」


なるほど。
関西方面には、近藤典子先生が散らかった家を訪問し、
見事に片づけてくれるTV番組があるそうだ。
そんな先生がいるなら、うちにだって来て欲しい。

ある日、私は美容院で女性雑誌を眺めていた。
すると、近藤典子さんの「靴の収納法」が載っていた。
親切な写真入りで説明を読むまでもなかった。
ホー、たいしたもんだ。
が、こんなの読んで実行する人っていうのは、いったいいるのだろうか。
そう思って私は簡単に読み飛ばした。



我が家の玄関は悲惨であった。
玄関にはマンションに備え付けの靴箱がある。
そこには比較的いい靴をしまっている。
靴の消費の激しい夫は普段履く靴をたくさん持っている。
靴箱に入りきらなかった靴の処理は3000円で買った組立式のカラーボックスに入れている。
が、それでも、靴ははみ出している。玄関にあふれる夫の靴。
普段は気にならないが、友達が来たりすると、玄関の床面が男物の靴だらけであることに気づく。
今更どうにもならないし、仕方ないから
「イヤー、うちには夫がたくさんいるもので・・・」
などと言って笑ってごまかしていた。

部屋の片づけをしていると、缶ビールの空き箱がたくさん出てきた。
捨てようと思ったが、その瞬間、私は近藤典子さんの靴収納法を思い出した。
できるぞと思った。
ホントに驚くほどの実行力で私はカラーボックスを近藤式収納棚に変身させていた。
なんのことはない。
ビールの空き箱をカラーボックスに合わせてカッターで切り重ねて置くだけだ。
ボックスに余分な空間がなくなり有効活用できるわけだ。
それで、夫の靴は見事にすべて収納された。
少しのスペースに子ども用の長靴を2足入れてしまう”かずみオリジナル引き出し”までつけた。
で、靴箱がきれいになると不思議なもので夫の靴を磨いてみたくなり、思わず、私は靴まで磨いた。

私は夫の靴を過去20回くらい磨いたことがある。
夫は、「嘘つけ。2〜3回だろ」というかもしれない。
だけど、そんなことはない。20回くらいは磨いたと思う。
で、その半分以上はムカツキながら磨いた。
靴が汚いと夫は「ちゃんと磨いとけ」と私に怒る。
夫の靴を磨くのが妻の仕事だと認識していない私はそのたびに腑に落ちず、
「私は自慢じゃないが、人生で数えきれるくらいしか靴なんか磨いたことがない。」とか言って抵抗した。
が、結局磨いてあげてしまう。
磨きながら「これが妻の仕事とは知らなかった」などと心で悪態をついて憂さを晴らした。

私の父は職人で、いつも”つっかけ”を履いていた。
おしゃれに言えば、サンダルか。
父が革靴を履くのは、結婚式か葬式のときくらいだった。
お通夜の晩なんかに母が二階の天袋から父の革靴を引っぱり出してきて
「まだこれ履けるかね。」なんて言ってたのを覚えている。
よって、私は子どものころから、母が靴を磨く姿も父が靴を磨く姿も見たことがない。
自分が初めて革靴なるものを購入したとき、靴磨き用のクリームなんぞをサービスされて、
汚れてもいないのに磨いてみたこともあるが、そのうち、磨かなくてもなんともないことを知り、磨かなくなった。

玄関がきれいになったことは感動的であった。
自分から夫の靴を磨いてしまったのは意外であった。
上手に靴を収納すると、玄関が広くなった。
なかなか快適で気持ちがいい。

でも、夫は玄関のことも靴のことも気づかない。
夫が気づくのは、汚くって自分が不愉快なときだけなんだ。
フン!!





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