第38号 子どもの喧嘩


  

「みんなで仲良く遊びましょう」
それは大いに結構だけど、
「喧嘩しちゃだめよ。」
と、喧嘩する前から、喧嘩を止めちゃあいけない。
子どもは、喧嘩しながら、人間関係を学ぶ。
親から聞いた立派な講釈より、
もっと大事なものを身体で学ぶ。
だから、喧嘩は大いに経験させたい。
だけど、親が出ていかなくちゃならないときもある。




仁王立ち特訓中(第40号参照)、娘の友達から電話があった。
いつもなら、娘を呼び出すはずのその子が私にごたごたなにか言っていて、
娘に変わってくれとは言わない。
「ハハン、この子は、今、私に相談の電話をかけているな」
と気づいた。

以下、電話の主りなちゃん(小3)、我が子E子(小3)、それからもう一人ケイちゃん(小1)が登場します。
りなちゃん、E子、ケイちゃんです。(全て仮名です。)

りなちゃんは、「明日、どうやって学校に行ったらいいかわからない。」と悩んでいました。
理由は「E子とケイちゃんが喧嘩をしたから。」というのです。
今まで、りなちゃんとE子は、二人で登校していました。
この4月から、同じマンションのケイちゃんが1年生になりました。
幼稚園も違うし、遊んだこともないケイちゃんでしたが、
ケイちゃんのお母さんに頼まれて二人は、快くケイちゃんを連れ行ってあげていたのです。

電話を切った後、私は、仁王立ち特訓を一時中断し、りなちゃんの話を娘(E子)にしました。
娘は、ケイちゃん(小1)の朝の様子を話し出しました。
通学路で、ケイちゃんが幼稚園の時の友達に会うと立ち止まって、おしゃべりしていて、前に進んでくれない。
「先行くよ」と言っても歩いてくれない。
遅刻しちゃうから「もう、行くからねっ!!」と言って、先に行ってしまったら、
ケイちゃんが「E子は悪い。意地悪した。」って怒って、頭を平手で何度もぶった。

喧嘩の内容はそれだけなのです。
が、その時の思いを語る娘は、涙ぼろぼろ、悔しさ丸出し、優しさいっぱい。
親の私から見ても「なんていいヤツなんだ」と思ったくらい。
だってね、娘、こんなこと言うんですよ。

M先生(1・2年生のときの担任)が、3年生は1年生の3倍って言ったから、私は、ずっと我慢してた。
ケイちゃんがわがまま言っても、私の頭をぶっても、笑ってた。
1ヶ月以上、ずっと、我慢してた。
でも、もう、我慢できない。ケイちゃんなんか大っきらいだ。
でも、ケイちゃんのお母さんにその話をしたら、きっと、ケイちゃんは、叱られると思うから、
ケイちゃんのお母さんに言うわけにはいかない。
だから、M先生に相談しようと思ったけど、M先生にはなかなか会わない。
登校中、ケイちゃんに頭をぶたれてるのを、3年生の友達に見られるのはいいんだけど、
4年生や5年生のお兄さんやお姉さんに見られるのが我慢できない。
りなちゃんは、ケイちゃんを怒らないから、ケイちゃんはりなちゃんが自分の見方だと思ってるけど、
ホントはりなちゃんだって、ケイちゃんのこと嫌いなんだ。
口では言わないけど、私はりなちゃんの心がわかるんだ。
りなちゃんはケイちゃんになにか言われると泣いちゃうから、私だって泣きたかったけれど、
りなちゃんが先に泣くから、私はケイちゃんに怒ったんだ。



話すこと45分。
目から3本の涙がぼろぼろこぼれて泣きっぱなし・・・
こんな我が子の顔見たことなかった。
「わかった。明日の朝、お母さんがケイちゃんに注意してあげるから。」
と、私は言った。
それから、私は悩んでいるりなちゃんに電話で、
「明日はいつもどおり、3人で学校に行けるから、心配しないで。」
と話した。りなちゃんに自分の思いを聞いてみたが、
彼女はとても大人で、あくまで中立の立場をとってどっちが悪いとも言わない。
ただ、喧嘩しながら行くのがたまらないらしい。
それぞれ、性格によって悩み方がこうも違うものかと思った。

次の朝、私は、子どもと一緒にケイちゃんちの玄関先に行った。
そして、出てきたケイちゃんに
「学校に行くとき、途中で立ち止まって、人とおしゃべりしてると、
遅刻しちゃうから、立ち止まらないで、、歩いて行ってね。」
と、やさしく話した。それだけ。ケイちゃんは、「うん」と言った。
「仲良く行くのよ。」と、二人に言った。
二人はエレベーターで下に下りて行った。
これから、りなちゃんと下で会う。そして、仲良く登校だ。

その週、娘はケイちゃんと遊ぶ約束をしてきた。
初めてケイちゃんちに行った。
とても楽しかったらしく、また約束してきた。
そして、今度はケイちゃんがうちに来た。
もう、兄弟みたいに遊んでいる。
登校中の喧嘩のことなんか、遠い過去の話のようだ。

喧嘩もできない、うわっつらのつきあいしかできない中高生たちがいる。
携帯メールでやりとりしてホッとするしか居場所がない。
アドレス消去したら、「ハイそれまでよ」なのに、
「私には呼べばすぐ連絡とれる友達が300人いる」ってエバッてた子がいた。

友達は300人もいなくていい。
唾飛ばし合って喧嘩できる少しの友達がいればいい。
子どもの頃の喧嘩は大事だ。
喧嘩するほど仲がいいっていうけれど、喧嘩もできない間柄では、友情だって育たない。
私は、娘に300人のメル友を自慢するより、一人の親友を大事にする子に育ってほしい。






TOPへ 会報一覧へ 前ページへ 次ページへ