第39号  カジュアル・デイ



女性は、年齢や職業にかかわらず、
一生の間、オシャレしたいと思えば、オシャレが楽しめる。
男の人はかわいそうだ。
もちろん、オシャレな人だって、いっぱいいるが、
子どもの頃から、オシャレ意識の訓練を受けていない
(男らしい)から、
オシャレの能力が育っていない人が多い。
職業柄、自由な服を着るチャンスのある人は、男性でも、オシャレが上手になる。
でも、ネクタイとスーツの色だけ変えて着まわしていれば
ことが足りるような人たちのファッションセンスは育つどころか退化していく。
たまに浮気心が湧いて色気づいても、
とんちんかんなオシャレしかできなくて、周りに笑われるハメになったりする。

日本人は制服好きだ。
古い話で恐縮だが、昔、アイビールックというのが流行った。
通勤電車に乗ると、誰も彼もがアイビールックで、
それ以外の服は売ってないのか?とさえ思った。
キヨシローのコンサートへ行けば、
みんな思い思いの服を着て来るけれど、結局、全員黒い服で、
キヨシローのコンサート用制服を着用してきてるんだと、よく思った。
スチュワーデスや銀行員に限らず、
OL用制服、ガングロ用制服、お受験・お入学用制服・・・など、
自由にオシャレをしているつもりでも、結局、
みんなと同じ制服着てないと安心できない症候群の人が多い。

知人A氏が仕事である会社を訪問した。
打ち合わせのために出てきた社員がA氏に向かっていきなり言った。
「こんな服装で申しわけありませんが、本日は当社、カジュアル・デイなものですから・・・」
その社員は、紺のスラックスに某メーカーブランドのポロシャツを着ていた。
よくみると、右も左も、紺のスラックスに某メーカーブランドの色違いのポロシャツを着ている。
訪問客に「こんな服装で申し訳ない」と謝りながら、
なぜ男性社員全員がこんな服を着なくちゃいけないのか。
A氏には不可解でたまらなかった。
それで、その”カジュアル・デイ”とはなんなのか、尋ねた。

そもそもの始まりは、偉い上司の思いつきだった。
「私たち男性社員は、いつも背広にネクタイ。なんと没個性的なことだ。
もっと個性的な服を着て仕事をしたら、社員の気持ちも柔軟になり、
精神的にもリフレッシュできるんじゃないだろうか。」
結局、偉い上司に誰も反対できなくて、
なんだか知らない間にカジュアル・デイができてしまった。
その日になると、男性社員は憂鬱だった。
自由な服を着てきていいといわれても、背広以外ろくな服をもっていない。
お父さんたちは、何を着ていったらいいかわからなくって困った。
青いズボンに白いベルトのヤッちゃんスタイル、
チェックのズボンに一流ブランドポロシャツ、
「え、今からゴルフにお出かけですか?」
と言いたくなるようなスタイル、
魚釣りスタイルもあったらしい。
そのファッション性のなさは、どこから見ても一目瞭然だった。

ある日、男性社員のための”カジュアル・デイ・ファッション講座”が開かれた。
その講座の結果、みんな

紺のスラックスと某ブランドメーカーの色違いのポロシャツ
を着用するようになった。
A氏は、ためいきをつきながら思った。
当社規定制服着用デイとでも名前を変えたらいいのに。
訪問客にいちいち謝らなければならないような服を着るカジュアル・デイって、
いったいどんな意味があるんだろ?
そんな日なんか廃止しようってことにならないのが不思議。」

カジュアル・デイに意味はない。
だけど、上司が言い出したことだもの。
誰もそれに逆らえない。
ただ、それだけのこと。
それで、訪問客に謝りながら、
おじさんたちはカジュアル・デイを過ごしているのだ。
なんだか情けない日本のオシャレ事情だ。





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