第3号  マリリンさんのキツーイ一言

                                                             


何年ぶりかの夫とのデートは、おかまバーだった。
「えっ、6年前?覚えてないわよ、あんたのことなんか。」
相変わらず、おかまバーのママは口が悪い。
マリリンさんは、6年ぶりにやってきた客に向かってそう言い切った。
「6年たったら、みんなの平均年齢すっかり上がっちゃって、あたしなんか、もうババアよ。」
「そんなことないですよ。まだまだきれいよ。」
と、ほめると
「気を使わないでお金を使って。」
と、言い返してくる。
焼きおにぎりを注文すると、すぐ、出てきた。
「あ、これ、冷凍おにぎりでしょ。」
「違うわよ。ちゃんと炊いたのよ。お釜でね!!」
                                  
「ところで、あんたの着てる服、それ、なにかのコスチューム?」
「普通の服だけど・・・」
「なんか変ね。あんた何歳なの?髪と服とバックがぜんぜん合ってないわ。」
ショックだった。
普段、誰も言ってくれないけど、マリリンさんがはっきり教えてくれた。
私の格好がなにかのコスチュームに見えるって・・・
                     
自分に似合う服が欲しくなった。
子どもを産んで以来、初めて私は自分の服がほしいと思った。
数日後、私は、一人で新宿に行った。
服はいっぱい売っていた。でも、どれも私には似合わなく見えた。
いいなと思ったブラウスがあって、ちょっと手にしてみた。
でも、60歳くらいの金持ちそうなおばちゃんが同じブラウス
胸に当てて鏡に映してみていたので、あわてて元に戻した。
自分がなにを着たいのか、自分はなにが似合うのか、わからなかった。

マリリンさんはどうしてあんなことが言えるのだろう。
おかっぱ頭して、かすりの着物着て、運動靴履いて、それで、私に言ったんだ。
「それ、なにかのコスチューム?ぜんぜん合ってないわ。」
って。
私はめちゃめちゃ落ち込んだ。
それから、私は自分に似合う服を自分で選ぶようになった。

                           
(1998.5)

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