第48号 勧誘電話

昔はよく押し売りが来た。
突然やってきて「布団買いませんか」とか言うんだ。
ガラス磨き用のゴムベラみたいなのを売りに来た人が
お店のガラスを磨いて帰ったことがある。
母が遠くで眺めながら
「あの人全部磨いてってくれないかな」
と言ったのでよく覚えている。

当時、那須の土地を買って儲けるという商売が流行っていた。
父はトランプさえバクチ扱いするような真面目な人だから
「土地で儲ける」というような話になると
「絶対客が損して不動産屋が儲かるようにできてるんだ」と言い切った。

子供の頃、私が一人で店番をしていると、
店に一人のネクタイをした男がやってきた。
男は子供の私に「那須の土地を買いませんか」と言った。
「それ買うと儲かるって話ですか?」と私は聞いた。
男は「そうです」と言った。
「そんなに儲かるんなら自分で買ったらどうですか?」
私が言うと男は「生意気なガキだ」と言って帰ってしまった。
あのときは愉快だった。

しかし、最近の押し売りは電話でアポをとってから来るから礼儀正しくなったものだ。

アポをとりにきた教材屋を一度家に呼んだことがある。
どんな教材か見てみたかったのと、
そういう人がどんなことを言うのか聞いてみたかったからだ。
教材屋さんは
「1年生の教科書には文章が少ないので家庭で子供に勉強を教えるときに母親が困るだろう」
とさかんに言った。そして「この教材には先生がいう言葉が全部書いてある」と言った。
私が「先生がいう言葉全部が書かれている本なんかあるわけないじゃありませんか。」
と言ったのは言うまでもない。それから、
「来年から、足し算の方法がかわる」
「8+5なら、8+2+3にしなければならない」
なんてことを言った。
私は、文部省に怒り心頭するふりをわざとして
「そんな指導法をしてもらっちゃ困るじゃありませんか。
8+5は5+5+3と考えたっていいし、8、9、10・・・と指で数えてもいいし、
いろんなやり方があるってことを子供に気づかせてくれなくちゃ困るじゃないですか。
え?、文部省がそんなこと本気で言ってるんですか。
足し算の方法がそんなたった一つみたいに教えられちゃ困りますね〜〜〜。
そう思いませんか???」
とまくし立てたら、教材屋は「そうですよね〜〜〜」と同意した。
しまいには、とうとう「勉強になりました。」と言って、
子供たちにいろんなお土産を残して何も売らずに帰って行った。

以前、怪しげな電話に子供が出て住所や親の名前を尋ねられ答えてるところを父親が発見し、
さっと代わったとたんにガチャンと切られたことがあって、
それ以来、うちではナンバーディスプレイなる便利な電話に買い変えた。
勧誘電話を撃退したい人には、これは絶対おすすめだ。
勧誘電話がかかってきたら、みんなブラックリストに入れてしまう。
このリストに登録された番号からの電話は全部はねられてしまう。
おかげで、同じところから何度もかかってくるということがなくなった。

それから、非通知でかけてきた電話は鳴らないように設定しているので、
電話番号を知られたくない人はうちには電話できない。
それで、勧誘電話は随分減った。
履歴をみると非通知でかけてきて、そのままかけ直してこない電話がある。
そんな中には案外勧誘電話が多いのかもしれない。

親戚、友人、知人などの電話番号は、みんな入力してある。
名前も出るし、呼び出し音も変えられる。
呼び出し音が「ねこふんじゃった」なら、友達関係
バッハの「トッカータとフーガ」だったら、下の階に住むこわいおじちゃんだ。
子どもたちが飛んだり跳ねたり暴れていると、早速「トッカータとフーガ」がなる。

普通の音で「ルルル・・・」となったら、番号だけは表示される。、
「うちの電話機が認識してない電話番号の人」からの電話ということになる。
そういう電話に出ると、たまに勧誘電話だったりするわけだ。
不動産屋、互助会、お墓、エステ、教材屋・・・

夫の勧誘電話の断り方は最高だ。
まず勧誘らしいと察しがついたら、
できるだけアホっぽくぶっきらぼうに「はい」「はい」と言い続ける。
あまりのアホっぽい受け答えにすぐさま先方は「息子さんですか?」と尋ねてくる。
そしたら、夫は「はい」とできるだけマヌケな声で答える。
すると必ず向こうは「おうちの方いますか?」とか「お母さんいますか?」と聞いてくる。
夫は「いません」という。
すると「またおかけします」と向こうの方から電話を切ってくれる。
夫は言う。
「オレ、一つもウソついてないよ」と。
私もやってみようかと思うこともあるが、いざとなると理性が働いてどうもできない。


私の場合、たいていストレートに「興味ありません」と言って切る。
が、たまに話を聞き始めてしまって、途中で切りたくなることもある。
こないだ「右脳を育てる教材」を勧められたときは
「右脳だけ育ててもダメでしょう。
頭と心と体をバランスよく育てる教育が大切ですよ。
あなたシュタイナー教育ってご存じ?とってもよろしゅうございますよ」と言ったら
「あ、シュタイナー教育、あ、聞いたことありますぅ・・・・」
と来たもんだ。

電話勧誘はときに酷いことがある。
「おめでとうございます。
男の子でしたか?女の子でしたか?
予定日をもう随分過ぎてますから、もう生まれたんですよね。」
電話の主は、男だったか女だったかしつこく尋ねた。
私が電話口で口ごもっていると、さらにしつこく詰問してきた。
答えなければ、この電話は切れない。
そう思った。
私は震える声で「生まれなかったんです」と答えた。
電話の人が「はぁ?」と言った。
「ですから、死産だったんです」
私が通院していた病院の母親学級は前期後期に別れていた。
前期の母親学級で友達になった人と
「じゃあ半年後にまた会いましょうね」と約束した。
でも、後期、私は出席できなかった。
もう妊娠は終わってしまった。
前期の母親学級のとき、ミルク会社かなにかの葉書に
出産予定日を書き込んで何かに応募していたのかもしれない。
なんの勧誘だったか覚えていないが、
その葉書のせいで私は生涯忘れられない勧誘電話をもらってしまった。
一番はじめの妊娠のときだった。

こないだ、電話勧誘で泥パックとかいうのを買ってしまった。
「普段8000円のところ、今日は特別6000円にします。
私も使ってみてとってもいいから勧めるのよ」
と言った。
値段については、ま、普段から6000円で儲かるようになってるんだろうとは思ったが、
お肌のシミが絶対落ちると聞いて買ってしまった。
ああ、私も年なんですね〜〜〜。
で、使ってみたら、これがいい。
気のせいかなにか知らないが、
ホントに気になっていたシミがどんどんとれていくではないの。
6000円にはちょっとまいるが、でも、エステよりは安いぞと思ったりする。
まさにそこが思う壺なのだろうが・・・・

勧誘電話にまいることも多いが、
人間がかけてくる分にはまだ許してあげたい。
かかってきた電話に仕事を中途でやめて出てみたら、
コンピューターの声だったりすると、がっかりする。

さて、今度はどんな勧誘電話があるだろう。

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