第49号 ヒーロー

ヒーローと言えばなんたって後楽園遊園地のヒーローショーだ。
後楽園遊園地のヒーローはそんじょそこらのヒーローとはちょっと違う。
なんたって、TVに出てくる本物のスタアがやって来るんだ。
だから、子どものファンよりママのおっかけが多いらしい。
それから、ちょいとおたくな男性のおっかけもたくさんいるってえから本物だ。
でも、後楽園遊園地まで行かなくたって、
偽物ヒーローならどこにだってやってくる。
近所のスーパーにも、ときどき怪獣と一緒に現れる。
一度だけ、そのスーパーのヒーローショーへ子連れで行ったことがある。
ヒーローショーは狭い道路に人を集めてもう始まっていた。
たいした人だかりではなかったけれど、
2歳の子どもが後ろの方から見るには無理があった。
夫は娘を肩車した。
が、夫はいきなり頭の後ろからメガネを蹴り飛ばされた。
ヒーローと怪獣におびえた娘が肩の上であばれたのだ。
買ったばかりのメガネが地べたに飛んだ。
メガネのツルはひん曲がり、ネジはどこかへ転がっていった。
夫は落胆し激怒した。
以来、その手のヒーローショーには二度と行かない。
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私にとって生まれて初めて出会ったヒーローは、
小学校3・4年生のときのクラスメートの杉山勝次君と菅原弘之君だ。(仮名)
彼らは、アニメの主人公のようにカッコよく、クラスの中でひときわ輝いていた。
杉山くんは、ペンキ屋の息子で根っからのガキ大将。
みんな彼を「カッちゃん」と呼んだ。
薄暗いペンキ倉庫でかくれんぼをしていたら、
「外で遊びなっ!!」
とカッちゃんのお母さんに怒鳴られて、
ワーーーとみんなで倉庫から飛び出した。
外が青空でまぶしかった。
菅原くんは美少年で色白やせ型の秀才だった。
菅原くんちにはよく遊びに行ったが、彼の家は広かった。
庭のある和風な家で平屋なのに間数はたくさんあるのが驚きだった。
美人でおとなしい感じのお母さんも印象的だった。
クラスでサッカーのチームを作ると、必ずカッちゃんチームと菅原チームに別れた。
カッちゃんは持ち前の運動神経の良さでチームを仕切り、
カッちゃんのカッコよさにみんなが引きつられてゲームに打ち込む、そんな感じだった。
菅原チームは、いつも作戦勝ちだった。
彼のチーム作りは天才的で運動神経のまずい私のようなものでも一度もイヤな思いをしないですんだ。
菅原くんがストーリーのあるマンガを描いてもってくると、
カッちゃんも負けずにマンガを描いてもってきた。
二人のマンガが教室の壁に貼られた。
休み時間みんながそれを読んだ。
どちらがどうだったか覚えていないが、
なぜ、二人ともスポーツができてマンガも描けて頭もいいのだろうと私は不思議だった。
たぶん、クラスのみんなが二人のヒーローに惚れていた。
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去年だったか、夫の旧友から電話があった。
彼には、妻と二人の子どもがいる。
バブルの頃、彼は不動産業でガッポリ儲けた。
そのときの財産はしっかり畳の下に隠してあるとの噂だが、
今はひっそり田舎で暮らしている。
夫が留守だったので、「用なら伝えておきます」というと
「イヤー、用ってわけじゃないんですけどね・・・」
と言いながら、話し出した。
彼は、今、警備会社で警備員をしている。
警備中にJRの高架下で落書きしている犯人をとっつかまえた。
それだけなら、本人だって驚かないだろうって。
それが、堂々地元の新聞に載り、JRからは感謝状が出て
金2000円也をいただいたと言うんだ。
「それじゃ、○○さん、ちょっとしたヒーローじゃありませんか。
ご家族の方は、さぞ鼻が高いでしょう」
と挨拶すると、夫の旧友は言った。
「イヤ、そんなことないっすよ。女房には
『あんたが調子に乗るとロクなことにはならないから気をつけろ』
って言われてます。
でも、ボクあんまり嬉しかったんで、
つい、自慢したくなって、××(夫の名)に電話しちゃったんですよ」
なんとも正直なヒーローである。
凶悪犯人ではなく落書き犯人かもしれないが、
金200万円ではなく、2000円だが、
それでも、痴漢やセクハラ行為で新聞に載ってしまうオヤジが多い昨今、
感謝状をもらって新聞に載るとはあっぱれである。
こんな活躍をしたら、子どもにとっては、きっと「パパはヒーロー」に違いない。
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さて、今、私にとってのヒーローは誰だろう。
やっぱり、「愛し合ってるか〜〜〜い!?」の忌野清志郎でしょうか。
みなさんには、ヒーローの思い出、ありますか?
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※これは、30000番ゲットのかおりさんから頂いたお題「ヒーロー」で書いたものです。