第50号 ある日の出来事

私は今娘の幼稚園関係のあることに熱中している。
その大事な集まりのときに、
私のリュックからRCサクセションの名曲”トランジスタ・ラジオ”が聞こえてきた。
まずい!携帯に電話だ。

朝、出かけに下の娘がゲロを吐いた。
もう、待ち合わせの時間ぎりぎりだった。
吐いてしまえば、もう元気ではあった。
が、まさかゲロ吐きたての娘を映画へ行かせるのは無理がある。
でも、娘はもう1ヶ月も前からこの日を楽しみにしていた。
3日前、風邪気味とわかると、「映画に行けなくなると大変だから」と言って、
自らパジャマに着替え早々に布団の中に入ってしまうほどの養生ぶりだった。
「きょうはやめようか」と私が言うと、娘は涙をこぼして「行く、行く」と言った。

娘の泣き声に目を覚ました夫が
「あなたが一緒についていけばいいでしょ」と言った。
「でも、きょうは、幼稚園の集まりがある」

私は、子どもを待ち合わせ場所に連れていった。
友達のAちゃんはもう来ていた。
Aちゃんのお母さんが新聞配達の親切な少年からデジモン映画の只券を4枚ゲットした。
Aちゃん親子とうちの子2人の分をだ。
前にもAちゃんのお母さんはうちの子たちをデジモン映画に連れていってくれた。
そして、その日もそういう約束になっていた。
私は、下の子のゲロの話をし、
「体調が悪くなったら、携帯に電話して。すぐに迎えに行くから」
と言って、娘を預けてしまった。
そして、2時間後、携帯が鳴った。

娘はもうすでに2回も吐いたという。
あと1時間で映画は終わるが、娘は最後まで観ると言っているとのこと。
映画が終わり次第引き取れるように迎えに行くと私は告げた。
仲間に手短にわけを話して保育室を出た。
集まりの途中で抜けることは大変無念であった。
が、仕方がない。
階段を降りて、別の保育室の前を通り過ぎようとしたとき、「もしや」と思って覗いてみた。
おお、ラッキー!!
なんと夫が来ているではないか。
土曜日は、有志のお父さんたちが大工仕事をしに幼稚園に来ている。
夫もたまに来ている。
でも、その日は確か何か用があるとか言っていた。
が、夫は脚立に乗って、天井のペンキを塗っていた。
電話の話をすると、「じゃあ、オレが迎えに行くよ」とすぐに脚立から降りてきた。
私は、足取り軽く階段を駆け上がり保育室へ戻った。
「下に夫がいたので頼んじゃいました!」

家へ帰ると、娘は布団にもぐって寝ていた。
夫は娘のためにリンゴジュースを作ったが、
結局それも一口飲んで吐いてしまったらしい。
夫は余ったリンゴ2個分のジュースを一人で飲んで
「腹一杯になったところだ」と言っていた。
布団の中の娘に映画はどうだったか尋ねると「よかった」と言っていた。
「ゲロ吐いちゃったの?」と聞くと、「けど、行ってよかった」と力強く断言した。

上の子たちは、映画のあと、渋谷の児童館で遊び、夕方帰ってきた。
帰ってきた上の子の話によると、
一回目のゲロはなんと電車の中だったそうだ。
「アタシが○○(妹)の口を押さえながら、
『エチケット袋出して。リュックの中』って言ったんだけど、
Aちゃんがエチケット袋が入ってないところを開けてたから、間に合わなくて、
Aちゃんのお母さんが『吐いていいよ』って言って、
Aちゃんの母さんの手の中に吐いたんだよ」
おお!ごめんなさい。
手で受け止めてくださるとは・・・なんともかんとも・・・
が、その次は、エチケット袋に吐いたそうだ。

エチケット袋は、朝、下の子がトイレで吐いてる間に
「もしも」に備えて、上の子がアッという間にこしらえたものだった。
作り方は学校の遠足のとき担任から習ったそうだ。
勉強のとき、筆箱から鉛筆を取り出すだけで
10分もかかる普段の娘からは想像もできない素早さだった。
そして、それを自分のリュックに入れて持って行っていたのだ。

Aちゃんのお母さんには、普段から並々ならぬ世話になっているが、
さすがにゲロの世話ははじめてだ。
すぐにお礼とお詫びの電話を入れた。
Aちゃんのお母さんは、気持ちよく「気にしないで」と言ってくれた。
「娘はゲロ吐いたけど、行ってよかったと言っている」
と告げると「それはなによりだわ」と言ってくれた。
Aちゃんのお母さんには、いくら頭を下げても足りない。

夜になって、子どもが寝たあと、夫が私に言った。
「きょうは、どう考えてもあなたが一緒について行くべきだったね」
「だって、今日の集まりには絶対出たかったんだもん」
「でも、やること本末転倒しないようにね。
その集まりがそんなに大事なの?子どものゲロより?」
「あなただって、仕事休みで家にいたじゃない」
「でも、オレがAちゃんのお母さんと一緒に映画に行くっていうのも変でしょ」
と夫は、ますます私の非を責めた。
そうかもしれないけど、
でも、私はあの集まりに出たかったんだ〜〜〜と思いつつ、
「ああ、そうでしたね。私が行けば問題なかったですね。
今後、このようなときには、子どもを優先させますよ。」
と、ふてくされながら言った。
非難されると、ついカチンとくるが、
それでも、こうして言ってくれる人がいるから、
独りよがりな子育てに陥らずにすむのだろうし、
二人で子育てしてると実感できるんだと思う。

その晩、娘は何度も吐いた。
水を飲んでもたちまち水を吐いた。
もう、胃の中はからっぽ。
きれいに洗浄されてしまったという感じですらあった。
「いつ治るの」と泣いた。
朝、目が覚めると少し元気が出たのか娘は「きょう治るって決めた」と宣言した。
宣言どおり、夕方には、食欲も戻り、もう吐かなくなっていた。

  

あの日は、ホントに使命感に燃えて幼稚園へ行かねばならぬと思っていた。
が、本当に私がすべきことはなんだったのかと考えると、
やっぱり夫のいうとおり、ついて行くべきだった。

私にとって、子育ては失敗と反省の繰り返し。
そのときは、よかれと思ってやっていることでも、
あとになってから、あんなことしてしまったけどよかったのだろうかと
自問して胸を痛めることなどしょっちゅうだ。

でも、私の周りには、私を支えてくれる人がたくさんいる。
Aちゃんのお母さんはもちろんだが、夫も、
そして、その他にもたくさんたくさん。
子どもが私を支えてくれることもある。
私の周りには、暖かい人がたくさんいる。
だから、今まで元気にやってこられた。
周りの人に支えられて助けられて愛されて生きている。
感謝せずにはいられない。

私の周りの愛する人たち
このHPを見にきてくださるたくさんの人たち
みなさん、どうもありがとう。




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