第54号  社会参加

娘の幼稚園に6年間通い、
私はそこで素晴らしい人間関係の作り方を学びました。
理事長先生はにこにこしながら言いました。
「この園ではね、三角形の組織は作らないんです。
長四角みたいな人間関係ができたらいいですね」
三角形とはピラミッドのことです。
それまで私はいつもピラミッドのような人間関係の中に存在しました。
幼稚園で体験した「長四角みたいな人間関係」
それは、素晴らしい人間関係でした。
ピラミッドの頂点がいない社会のことです。

さて、「社会参加って何?」と聞かれたら、あなたは何と答えますか。
「学校と家庭と社会の連携が大切だ」といった言葉を耳にすることがあります。
とすると、「社会」とは「学校でも家庭でもないところ」ということになります。

では、「参加する」とはどういうことでしょうか。
「参加することに意義がある」という言葉があります。
それは「勝った負けたはともかくやってみることが大事だよ」
ということじゃないかと思います。

つまり、
社会参加とは学校でも家庭でもないところで何かをやってみること
と言えるのではないでしょうか。
ここでは、「社会参加」をこのように定義付けたいと思います。

  

就職一日目の朝の通勤バスの中での心境を覚えています。
行くのがイヤで、イヤで、死んでしまいたいほど暗い気持ちに陥っていました。
たぶん、家庭でも学校でもない「社会」という
初めての場所へ出るときの緊張だったのでしょう。
慣れてしまえば、仕事の内容は私の趣味に非常に合っていたので、
「楽しみながら給料がもらえる」などと言って喜んでいるほどでした。
当時、確かに私は社会に参加していたと思います。
でも、「社会参加している」という自覚はありませんでした。

私は、今、仕事をしていたころよりずっと社会に参加しているような気がします。
もちろん、誰からも給料はもらっていません。
まず、私は、小学校のPTA役員会の書記をしています。
それから、近所の幼稚園と母親たちで立ち上げた
土曜日だけのシュタイナー学校の運営委員をしています。
あと、子どものオイリュトミー(魔法の踊り)の会のお世話係りをしています。
でも、そういう係りや役員だけが「社会参加」だとは思いません。
近所の人や学校や幼稚園で知り合った
お母さんたちとのつきあいも大事な私の「社会」です。

私は今とても楽しく「社会参加」しています。
なぜ、こんなに楽しいのかというと、それは、
私が今いる社会がどこも「長四角みたいな人間関係」だからです。

これまで私はいつもピラミッドな人間関係の中に存在しました。
上司の顔色を伺い、強い人の発言に振り回され、
彼らの機嫌を損ねないよう気にするあまり
自分のホンネがどこにあるのかさえ見失っていました。

「長四角みたいな人間関係」の中には、
命令する人や強い権力をもつ人がいません。
「オレの言うことを聞かない奴は仲間に入れてやらないぞ」とか
「あの人の言う通りにしておかないと後がこわいから言うなりになっておこう」
と言ったレベルの悩みが皆無です。

「長四角みたいな人間関係」が成り立つためには、
お互いを尊重し合い、人の意見に耳を傾ける姿勢が必要です。
仕事を分担するときは、自分ができることを引き受けます。
重たい仕事を引き受けたから発言権が強くなるとか、
あまり仕事に協力できなかったから
発言しにくくなるといった心配はいりません。
自分が「できる」と思ったことをすればいいのです。
当たり前ですが、引き受けたことは責任もってしなければなりません。

周りがどう思っているかを心配する前に
自分はどう思っているのか、しっかり考えていいのです。
イヤ、しっかり考えていいというより、
「長四角みたいな人間関係」を保つためには、
一人一人が自分の考えをしっかり持たなければならないのです。
そして、自分で考え、自分で判断し、調和のとれた行動をとればいいのです。
誰かが考えてくれるだろう、誰かが決めてくれるだろう、
誰かのマネをしていればいいだろうでは、
たちまち「ピラミッドな人間関係」に陥ってしまいます。
一人一人の意識がしっかりしていてはじめて成り立つ人間関係なのです。

「ママ友」や「公園デビュー」の悩みの根本には人間関係の問題が潜んでいます。
人間関係の問題は、その人の住む地域性によって、
本人の気持ちや努力だけではどうにもならないものがあります。
それでも、本人の気の持ちよう一つで楽しくもなり、
苦しくもなることがあるような気がします。

まず、幼稚園ママや公園ママとのつきあいに悩んでいる人の場合、
人の評価を気にし過ぎるあまりに悩みが深くなっているような気がします。
「学校や家庭の続きではなく、私は社会に参加しているんだ
自覚するだけでも、悩みは多少軽くなるのではないでしょうか。

さらに、その社会を「ピラミッドな社会」と決めつけるのをやめて
「長四角みたいな人間関係を作ってみよう」という気持ち
眺めてみることはできないでしょうか。
確かに「長四角みたいな人間関係」を一人で作っていくのは極めて困難なことです。
自分一人の力で周りの状況を変えることはできないでしょう。
でも、人の意見に全く耳を傾けないような人や
自分の意見を押し通そうとばかりする人に出会ったとき、
「この人はとってもピラミッド型な人間だ」と認識するだけでも
少しは気持ちが楽にならないでしょうか。

クラスでPTAの委員がなかなか決まらないときなどに
「仕事を持っているなんて理由にならない」とか
「子どもが小さくたって、私はやった」などと言って
「できない」と言っている人に仕事を押しつけてはいけません。
「できるか」「できないか」は自分で決めればいいのです。
また、「できる」と言っている人に
「大変そうね。そんなにいろいろ大丈夫?」などと言うこともないのです。
意見を求められたら「それはかなり大変よ」とか
「いざというときは協力するから、やってみたら?」
などと責任がもてる言葉で助言すればいいのです。

あなたも「長四角みたいな人間関係」を目指した社会参加をしてみませんか。

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これは、50001番ゲットのれいさんから
いただいたお題「社会参加」で書いたものです。
50000番の申し出がなかったので前後賞として、
申し出のあったれいさんからお題をいただきました。
今まで考えたこともなかったテーマに挑戦できた
充実感を味わわせていただいております。

貴重なお題をありがとうございました。