第56号 収納の秘訣

私は今、途方に暮れている。
今やるべき事はパソコンではなく、部屋の片づけである。
そんなことはわかっている。
が、気が付けば、私はパソコンの前だ。
あの物の山をいったいどうやって片づけたらいいのだろうか。

こないだも途方に暮れて、友人に電話をかけた。
「油ってどこにしまえばいいの?」
なんなんだ、その質問は!と言われそうだが、私は実際困っていた。
彼女は「油は油を使うすぐ近くにしまうといいわ」と即答してくれた。
言われた通り、私は油をガス台のすぐ脇にある大きめな引き出しの中に入れてみた。
そうすると、みりんや醤油も入れてみようという気になって、だんだんあるべきところにおさまり出した。
が、リビングを見ると、状況は一つも変わっていない。
相変わらず部屋は物の山だ。
途方に暮れていると、夕方、油の置き場所を教えてくれた友人が来てくれた。
実際にものを収納しながら、彼女は「収納の秘訣」を教えてくれた。
言われてみれば当たり前のことだが、私は今までそれを実践していなかった。

一、数年使わなかったものは捨て、ものが置ける空間を家の中に作るべし

一、使わないが、とっておきたいものは、倉庫(なければ戸棚の奥の方へ)にしまうべし

一、たまにしか使わないものは、リビングから遠い部屋の戸棚にしまうべし

一、よく使うものは身近な棚に入れるべし

一、物を分類し、似たもの同士はそばに置くべし

一、まだ開封していないものはストック用として、まとめてしまうべし

一、収納用の整理箱を用意すべし

一、収納場所を決め、使った後は、元の場所に必ずしまうべし

一、ものは全て戸棚の中に入れるべし

一、入りきらないものは捨てるべし

6年前のことだ。
ある友人が遊びにきたとき、私は尋ねた。
彼女は、インテリアコーディネーターの資格をもっていた。
「この部屋、どうしたら、片づきますかね」
すると、彼女は言った。
「う〜〜ん、リフォームするしかないわね。
子どもがいるうちは仕方ないわよ」
慰めてはくれたが、私は思った。
子どもが生まれる前はもっと汚かったんだ。
子どもが生まれたんで、やっとこれだけキレイになったんだ。
でも、やっぱり、うちって散らかり過ぎかしらん。


何度か気合いを入れて片づけに挑戦したことはある。
ある時、私は夫と一緒に和ダンスを隣の部屋へ移動した。
あまりの重さに一時はどうなることかと思ったが、なんとか部屋の模様変えに成功した。
和ダンスの中身を全て出し、茶箱に入れて封をした。
空になった和ダンスに子どものおもちゃを入れた。
我ながら、画期的なアイデアだと思った。
取り敢えず、目の前から、おもちゃが見えなくなったのが嬉しかった。
が、引き出しが重すぎて、子どもが自由に開閉できないのは難点だった。

2年前、思い切ってリフォームしようと夫婦で盛り上がった。
すぐにリフォーム屋さんに来てもらった。
が、見積もりの値段にひるんで、話はそれっきりになってしまった。

ところが、今年の春、ガス給湯器が壊れた。
風呂に入るのも困って、銭湯通いを余儀なくされた。
ガス屋さんに来てもらうと、ガス屋さんは、遠慮しいしいこう言った。
「この給湯器ね、これ、20年以上と言っても、
30年に近い方の20年以上たってるんでね、
もう新しいのに代えるしかないっすよぉ」
そっかぁ。
いくらなんでも、この給湯器だけはどうにも取り代えないわけにはいかんな。
と、これがはずみになって、だったら、キッチンもリフォームしちゃおうということになった。
築30年近いマンションで、初めてのリフォームである。
2年前ひるんで話が延びていたリフォーム屋さんをすぐに呼んだ。

リフォーム屋さんと言っても彼はインテリアデザイナーだった。
こちらが希望するようなイメージでいくらでも設計してくれた。
そして、キッチンは2週間足らずで完成した。
が、部屋は全然片づかないのだ。

引っ越しの経験もないくせに「引っ越しのほうがまだマシだよ」と思った。
引っ越しだったら、空っぽの部屋に物を移動するだけでしょ?
うちの場合は、リフォーム中、生活しながら、
ものを部屋から部屋への大移動しなければならなかった。
リフォーム前、キッチンにあった物をどんどんどんどん
夫の部屋に積み上げていって、ドアを閉めてしまった。
夫の部屋に入りきらないものは、リビングの隅っこに積み上げた。
そこまではよかった。
が、キッチンがいざ仕上がって、
さあ、荷物を新しいキッチンに収納しようという段になって、私は途方に暮れた。
この物の山をどこから崩していけばいいのか。
さっぱりわからない。
今までいくら片づけても片づかなかったのは、収納の仕方を間違えていたからだ。
今度は”初めの収納”を失敗しちゃいけない。
収納の秘訣は教わった。
が、どこから手をつけたらいいのだ。



幼稚園の学園長先生の言葉を思い出した。
学園長先生は確か今年で90歳になる。
さすがにお年で、ご飯を食べた後など食器の山を見ただけでも途方に暮れると言っていた。
でも、そんなとき、若い頃、山登りが好きだった先生は、思い出す。
「てっぺんまで行くのは大変よ。ああ、まだ、あんな遠くだ。
でも、まずは、一合目まで行こう。って、一合目まで行くの。
一合目まで行ったら、一休みするでしょ。
じゃあ、今度は二合目まで行こう・・・って、
一休みしながら、最後はてっぺんまでついてるのよ。
茶碗もね、こんなにあるって思うでしょ。
でも、じゃあ、これだけ洗ってみようって、
ちょっと洗って、一休みして、また、ちょっと洗ってみると、
最後には洗い終わってるのね。」

ああ、私もあの山の隅っこをちょっと片づけてみるか。
ちょっとやって、一休みして、またちょっとやって、一休みして・・・
そしたら、そのうち、片づくかな。
う〜〜ん、しょうがない。
取り敢えず、パソコンをやめて、あの物の山の中へ突入だ!

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