第5号
 我流

                                          
我流。                          
これ、うちの車の名前。
子どもたちは、車のことをガリュウと言う。
「お父さんのガリュウ」って。
お母さんなら、絶対選ばないこと知ってるんだ。

クラシックカーを想像していただくとよい。
ふくれたほっぺたに、まん丸目玉。
四角い口して尖った牙をむけている。
でも、ぜんぜんこわくない。
とぼけた顔のふざけた車。                  
購入当初は恥ずかしかった。                       
八百屋のお兄ちゃんが、私の顔見て     
「あ、この人だよ。変な車の持ち主。」         
と、店員のあんちゃんに大きな声で伝えた時なんか、いやだった。  
目立つから町の中を走っていても
うちの車とすぐわかってしまう。
「きのうの5時頃、踏切の所にいたでしょ。」
てな具合に。
赤信号で止まっているとき、
じろじろ見ながら通り過ぎていく人も多かった。
夫は喜んでいる。
とにかく見せたい。困った露出癖だ。
                          
                             

便利なこともある。
私は、車が見えない。すべて同じに見える。
広いパーキングのトイレから出てほっとして
さて、車に戻ろうかなと思うと、帰れない。
ある時なんか、親切そうなおばさんから、お金借りちゃった。
夫の携帯に電話して場所を聞くために。
その人、お金は返してくれなくていいって行ってしまった。
おお、神様ありがとう。
今じゃ、さすがにこういうレベルの戸惑いはない。
だって、我流見分けられなくなったら、ヤバイぜ、そりゃあ。

我流に乗って早4年。
もう慣れて今では別に恥ずかしくない。
町の人も見慣れたようで、もう振り返らない。
でも、やっぱり、目立ってる。
たまに、道路でよその我流に出会うと
なつかしい兄弟に会えたような郷愁を覚える。

あなたは、どんな車に乗りたいですか。


                    


(1998.6)

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