第67号 クールな年頃

最近、長女はとってもクールだ。
「おかあさん、緑ってクール?」
「ね、電車でおばあさんに席譲らないのってホットだよね」
娘はすべてのものごとをクールかホットかで分けたがる。
クールが善で、ホットが悪。
単に勧善懲悪主義に走っているだけなのだが、
娘に言わせると、クールはカッコよくって、ホットはカッコ悪い。

あるアニメにコウイチという少年が出てくる。
あまりメインな登場人物ではないが、娘は彼に惹かれている。
コウイチはちょっとワケありで影があるが、
性格は優しく、決してバカな行動をとることはなく、
しかも思いやりのある立派な少年である。
そのコウイチの性格が「クール」なのだそうだ。
彼女は今、自分もコウイチみたいになりたくてたまらない。

牛乳をこぼせばホットで、
親に「勉強しろ」と言われる前に始めればクール。
なぜか2Hのシャーペンを使ってるとホットで、
2Bの鉛筆を使っているとクール。(?)

”コウイチならどうするか”が判断の基準なのだが、
自分の判断に必ずしも自信があるわけではない。
それで、ときどき私に尋ねてくる。
「ねえ、おかあさん、・・・するのってホットだよね」
「・・・するのってクールだよね」と。
それで自分の考えが正しいことを確かめているのだ。

コウイチは娘が自ら選んだ”目指す人物像”である。
アニメのキャラクターではあるが、
”目指す人物”がいるのはいいことだと私は思う。
実際には、娘流に言う”ホットなこと”を娘は日常茶飯事してはいるが、
自分なりの価値観をもとうとしている発展途上な娘にエールを贈りたい。

ところで、コウイチも娘も小5である。
小5といえば、私にとっては印象深い年頃だった。
私は、当時、「今が人生で一番楽しいのではないか」と思っていた。
今になってみると、やはり、あの頃は最高に楽しかった。
何が楽しかったのか、よく覚えていないが、なにしろ毎日がハッピーだった。
学校から帰ると、毎日、近所を歩き回った。
家の周辺だけではあきたらず、学校の周りから学区外までどこでも歩き回った。
知らない道を友達と歩きながら、小さな教会を見つけたときなどは感動した。
私にとって、あれは冒険だった。
それから、何日かごとに回ってくるグループ日記が楽しみだった。
グループでリレー童話をやっていて、それを読むのも書くのも楽しみだった。
グループ日記があれほど楽しみだったというのは、
たぶん、よほど学校が楽しかったからに違いない。
今になって思うが、担任がいい先生でクラスを上手にまとめてくれていたのだと思う。

あるとき、娘が「お母さん、子どもの頃、嫌いな人っていた?」と聞いてきた。
娘は、今までずっと仲良かった友達A子がイヤになってきているらしかった。
今度「遊ぼう」と言われたとき、断ってもいいのかどうか。
仲良しだったA子のことを「嫌い」と思うのはいけないことではないのか。
そんなことを悩み、娘は小5の小さな胸を痛めていた。

私は、自分が5年生のころの話をした。
5年生になって、私はK子と急激に親しくなり誰よりも仲良くなった。
毎日のように一緒に遊んだ。
それなのに6年生になってから、なぜかK子と私は喧嘩して絶交してしまった。
それは生半可な絶交ではなくて、ホントにほぼ1年間一度も口をきかなかった。
卒業式真近になって、私は反省の気持ちを手紙に書いて彼女に渡した。
彼女からも同様に反省しているという返事が来た。
それで一応絶交は解消されたが、
でも、やはり、もとのような仲良しには戻れなかった。
中学生になって、同窓会で顔を合わせたときは、
にこっと笑い合うことはできたが、それだけだった。
どうしてああまで仲が悪くなったのかよく覚えていないが、
たぶん、二人は性格が似過ぎていて、
鏡を見ているようで耐えられなかったのではないかと今は思う。

娘が5年生になってからできた新しい友達のB子は娘に言った。
「あなたが一番好きだから他の子とは遊ばないで、私はあなたとだけ遊ぶ」
娘が一番の親友と思っているのは幼馴染のY子だ。
B子の告白は嬉しいが、「あなたとだけ遊ぶ」と言われても困るのだ。
それで娘は悩んでいた。
私は、「誰にだってそれぞれの世界がある」ことを話した。
一緒に遊べる日というのは、お互いの世界が重なった日なのであって、
あるときはB子と遊ぶかもしれないし、あるときはY子と遊ぶかもしれない。
B子と遊んでいるからと言って、Y子のことを嫌いになったわけではないし、
Y子と遊んだからと言って、B子を嫌いになったわけではない。

あるとき娘はY子と二人だけで遊びたがっていた。
が、いつも二人で約束している日にC子からも「遊ぼう」と電話がかかってきてしまい、
「いいよ」と言ってしまうことを繰り返していた。
ある日、娘は、
「きょうはどうしてもY子と二人だけで遊びたい。
 でも、また、C子から電話がかかってくるかもしれない。
 だけど、きょうこそは勇気を出して断るんだ」
と宣言した。
娘の予想どおり、C子から電話がかかってきた。
娘は「ごめんね。きょう、遊べないんだ。今度遊べるときに遊ぼう」と電話口で言った。
電話を切ったあと、娘は「ああ、ドキドキした」と言った。
断られた友達の気持ちがわかるからだろう。
でも、勇気をもって断り、Y子と二人きりの時間をゲットした娘の顔は、
それこそクールだった。

小学校5年生。
9歳の危機を乗り越えた子どもたちが
思春期の新たなる時期にさしかかる人生で最も愉快な年ごろ。
人生は人間関係である。
小5の悩みなんて大人から見たら取るに足らないちっぽけな問題かもしれない。
でも、この時期、人間関係でいろいろ悩んでるヒマがあるってことは、
とっても大事なことのような気がする。

 

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