第68号 くつろぎコース

ある日、我が家に全身マッサージ機がやってきた。
別段私はマッサージ機がほしいなどとは思っていなかった。
夫だってそうだった。
が、何かのはずみで夫が友達から安く譲り受けることになった。
宅急便屋さんが運んできたドデカイ荷物が玄関にドカンと置かれた。
「で、これ、どこに置くのよ」
困りつつもどこかに収めるしかない。
とりあえず、それはベッドとピアノとエレクトーンのある部屋に置くことになった。
「ちょっとやって楽しんで飽きたら、ネットのオークションで売るんだから、
ビニールとか説明書とか箱は丁寧にとっておけよ」
と、夫は言った。
その晩、風呂から上がって、マッサージ機をやってみた。
機械にしてはなかなかいい。
くつろぎコースを選択すれば一連のマッサージをしてくれる。
「結構いいじゃん。終わるころは眠りそうになったよ」
と私は喜んだが、
「でも、早くオークションに出してよね」
と念を押した。
あれから2年経った。
全身マッサージ機くんは、今も
あの日置いた場所から一歩も動かずデーンと居座っている。

先日、珍しく私は熱を出した。
夕方、妙に寒くなって震えはじめたので熱を測ってみると、7度9分だった。
ガクガク震えながら布団をかぶって寝ているうちに
どんどん熱が上がっていって、アッという間に8度9分になった。
体中が痛くて重たくなった。
特に下半身は鉛をひきずっているような感じだった。
夜、夫が足の裏やふくらはぎをたっぷりもんでくれた。
次の日には、もう熱は下がっていたが、まだ体はずっしり重たく、体中が痛かった。
全身をじっくり誰かにマッサージしてほしかった。
そのとき、全身マッサージ機くんが私の目に飛び込んできた。
そうだ。彼ならやってくれるに違いない!
私は初めて自ら進んで彼に身を任せた。

くつろぎコース開始。
ぐい〜〜〜ん、ぐい〜〜〜ん 
始めはイヤというほど腰の当たりをぐいぐい持ち上げ、腰の中までえぐってくれる。
それから、だんだん背中の上のほうにぐりぐりぐりと移動して
今度は首筋から肩のあたりを強くもんだり、やさしくもんだり、
叩いたり、えぐったり・・・至れり尽くせりのサービスぶり。
ひととおりコースがすむと、いつのまにかくつろぎコースは終了している。
まだ物足りない。
私は再び「入」のスイッチをオンする。
今度は、自分で部分選択コースを設定してみる。
腰中心にぐりぐり、それがすんだら肩。
ああ、気持ちい〜〜い〜〜!
ああ、イテテテテ・・・・でも、気持ちイイ〜〜!
ああ、そこそこ、そうそう
ああ、なんておりこうちゃんなの。
てな具合に一時間以上もマッサージ機にもたれていた。

マッサージ機にかかりながら、なぜか私は
自動食パン製造機のパンをこねる様子を何度も思い出した。
夜寝る前にセットしておくと、
朝の6時には焼きたての食パンが出来上がっている。
ものぐさ者の私には、とっても便利な機械である。
炊飯器は生まれたときからあったせいか、
どうも「炊けて当たり前」という感じがあるが、
初めてパンをこねる機械を見たときは本当に感動した。
明け方、目が覚めて、台所の方で音がするので行ってみると、
早くもパン製造機くんが活動を開始していた。
なんともけなげな姿だった。
家の人たちがまだみんな眠っているのに、
一人早起きをして、ぐいんぐいんと生地をこねているんだから。
機械というのはたいしたものだ。
そりゃ人間の手加減のよさに勝るものはない。
しかし、機械というのは全くもって従順だ。

電源を入れさえすれば
一人けなげにパンをこねてくれたり
いくらでもマッサージし続けてくれたりするんだもの。
「いや〜〜、マッサージ機もなかなかいいもんだね。気に入ったよ。」
おかげで体は結構軽くなった。
たぶん、彼がオークションにせり出されることはないだろう。

そういえば、
マッサージ機より下手な人にお金を払って
マッサージしてもらったことがある。
箱根に行ったときだ。
宿のフロントにマッサージ2500円と書かれた看板があった。
「安いね。それじゃあ、やってもらおうか」
夫も合意してくれ、二人で頼むことにした。
風呂から上がって部屋へ戻り、しばらくすると、
ひょろりとして色白な若者がやってきた。

私は、昔から胃の裏あたりが凝っていて、
そのあたりなら、いつ誰に押してもらっても気持ちいい。
だから、そのときは、本職のマッサージ師さんに思う存分、
そこらあたりをえぐってもらえるんだと楽しみにしていた。
が、彼は、ふくらはぎあたりからはじめ、だんだん上半身へ移り、背中、腕・・・
とお決まりの”くつろぎコース”か何か知らないが、
それだけやっておしまいになってしまった。
しかも、揉むところ揉むところ、力が入り過ぎて痛くてかなわなかった。
一番やってほしいところに来たとき、
「そこらへんが一番気持ちいいんです。
そこんとこ中心にやってもらえないんですか?」
と聞いてみたが、
「一応、順番がありまして」
なんちゃって、重点サービスはしてくれなかった。

人に伝えるのは難しいのだが、
夫と私が大層気に入っている治療院がある。

子どもに母乳をやっていたころ、
足と肩を部分的に痛め、辛い思いをしたことがある。
近所の診療所で電気針治療とかもやってみたが、
逆にイヤな気分が数日続いただけだった。
市販の軟膏を貼ってもそう効き目はない。
そうこうしているとき、夫が
「だまされたと思って行ってみたら?」
と、紹介してくれたのが、某治療院だった。

治療院の先生によると、
人間の体には神経が六百何十本だかあるそうだ。
その神経がちょっとねじれたとき、
肩が痛い、足が痛い、腰が痛いということになるらしい。
そこの治療院の先生は、その”神経のねじれ”とやらを
指でひょひょいとさするだけで治してくれるのだ。
ひょひょいだけなら、まだ、「なるほど」と思うのだが、
助手の人の手から、ときどきをもらうんだな。

事故で腕を切断したとき、
切断したはずの所が、かゆくなることがあるそうだ。
なくなった腕の部分にまだが流れているからだそうだ。
そういう話を聞くと、なるほどというのがあるのかとは思うが、
の流れをこんなふうに利用する治療法に出会ったときは、
正直言って「なにやってんの〜〜???」と思った。
しかし、この治療院へ行くと、ホントに治ってしまうのは、
やっぱりのせいだろうか。

寝る前、よく子どもたちに足の裏を踏んでもらう。
足踏みの次は、ふくらはぎを叩いてもらう。
子どもたちは「大根切り切り」と言いながら、
手を包丁のようにして、ふくらはぎを叩いてくれる。
はじめのうちは、面白がってやってくれるが、
そのうち飽きて、「お〜〜しま〜〜い」だ。
でも、二人の孝行娘に足をマッサージしてもらったら、
「極楽、極楽」
私は幸せ者である。

さて、みなさんは、どんなふうに肩懲り解消してますか。

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