第73号 勉強 その1

このごろ、私はずいぶんと我慢強くなった。
以前、私は、「今こそ我慢のしどころだ」という意識もなく、
思いのまま行動していた。
しかし、ここ一年、私は思いのまま行動できなくなった。
理由は、娘の成長にある。

人として言ってはいけない言葉があるように、
親として子どもに言ってはいけない言葉がある。
私は、そんな言ってはいけない言葉を平気で叫んでいた。
「それなら、もう勉強なんかしなくっていい!」
私は、自分の子どもが勉強なんかしなくてもいいと思ったことなど断じてない。
それなのに、逆上すると言ってしまう。
勉強中の娘が「教えて」と言うから答えているのに、
ちょっと説明が長くなると、「もういい」とか言い出す。
「もういい」と言われたって、こっちはまだ説明の途中だ。
まだ言いたい。
そんなとき、勉強の内容とは無関係に親子喧嘩が始まる。
子どもの屁理屈に巻き込まれてしまった大人は哀れだ。
子どももろとも泥沼へ落ちていく。
泥沼でもがきながら、私は娘に叫ぶのだ。
「もう、勉強なんかしなくっていい!」



4年生のときまでは、それでも娘は私にすがりついてきた。
「勉強する〜〜」
しかし、5年生になって、娘は変わった。
反抗期というヤツか。
親の言うことを素直にきかなくなった。
「勉強なんかしなくっていい!」と言われたって平気だ。
「あっ、そう。じゃあ、しないよ」
と、娘は冷たくそっぽを向き、
「勉強なんかできなくたって別にいいよ」
と、つぶやく。

私は、自分の傲慢さを反省した。
「何もあんなふうに言うことはなかった」
私は、長女のことになるとことさら夢中になってしまう。
親が子どもに一生懸命になるのはいいが、
娘にとっては迷惑千万に違いない。
それなのに、娘は決して迷惑がらず、私を喜んで受け入れてくれる。
なんたる大きな愛!
それで、私は図に乗っていた。
娘が5年生になったある春のうららかな日、
私はもう娘と互角に戦うのはやめようと心に決めた。

金曜日の7時から8時までは「ドラえもん」と「アタシんち」を楽しみにしている。
それで、毎週、金曜日の夕方になると私が言うのだ。
「7時までに勉強が終わってなかったら、TVは見せませんよっ!」

ある金曜日の7時。
娘は残念ながら、算数の宿題が終わっていなかった。
しかし、娘はものすごい勢いで「TVを見ながら宿題するから平気だ」と主張した。
あまりの主張に親の私もひるみ、見るなと言えなかった。
娘はCMの合間、合間に宿題をちゃっちゃとすませた。
私の方は「あんなんで出来ているのかね」と思いつつも黙っていた。
8時になってTVを消した。
テーブルの上には算数の教科書とノートがある。
私は、思わず、手にとって調べた。
すると、なんだ、めっちゃ違ってるじゃないか。
一つも合ってない!
「全部違ってるよ」
娘に言うと、娘は反感丸出しの声色で
「でも、やり直さないよっ!このまま持っていく。全部バツだっていいもん!」
と言う。この勢いじゃあ、こっちがマジになったら、絶対、やらないなと思った。
私は作り笑い(もしかして、ひきつってさえいたかも・・・)を浮かべながら、
「宿題、やり直してくれると、お母さん、うれしいなあ〜〜」
と言ってみた。すると、娘は
「しょうがない。やってあげるよ
と、できるだけ親を嫌な気分に陥らせようとばかりの言い方をした。
が、それがなんともおかしいやら面白いやら。私は半笑いしながら、
「まあ、やってくれるの?お母さん、うれしいなあ〜〜」
と学芸会以下の演技をしてみせると、娘も笑い出した。
それから、二人でしばらく大笑いすると、娘はおだやかになり、宿題をやり直しはじめた。
TVを見ながらやった自分のめちゃくちゃな解答を見て、
「なんでこんな答えを書いたんだろう」
と自分で自分に呆れていた。

親が子どもに勉強させるのは一苦労だ。
勉強させながら親子喧嘩をしたことがないという人がいたら、お目にかかりたい。

きょうも、娘は苦手な国語の読解問題をやりながら、”意味不明な問題文”に怒り心頭していた。
そんな怒りに満ちた娘を見てると、
「意味わかんないからって、八つ当たりしないでよ」と言いたくなる。
しかし、私はこらえる。
一緒になって怒っちゃいけない。
怒鳴らないで我慢している自分を感じる。
ぐっとこらえて、私は娘を励ます。
「声に出して読んでごらん」
それから、私も声に出して読んで見せる。
「お母さん、読むのうまい!」
娘は逆に私をほめてくれたりする。
親子で押したり引いたりしながら、やっとの思いで問題をこなしていく。
最後はねぎらいの言葉。
「よくがんばったね」
すると、娘は言う。
「お母さん、好き〜〜」
娘からの愛の告白。

親が子どもに勉強させるのって、どうしてこんなに大変なんだろう。
今のところ塾へも行かず、
なんとか家で勉強する習慣を身につけさせようとがんばっている。

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