第75号 鵜呑み

ウナギがどうしてウナギと言うか、ご存知ですか。
昔、鵜という鳥が長い魚を見つけて口にくわえたかと思うと、
上を向いてゴクリと飲み込もうとした。
ところが、その魚があんまり長くて、うまく喉を通らない。
鵜は目を白黒させて苦しがった。
それを見ていた人が
「あっ、鵜が難儀だ。ウガナンギだ。ウナギだ」
ってんで、あの長い魚がウナギって名前になったってんですが・・・
まあ、落語で聴いた噺ですので、ホントかどうかはわかりません。
たぶんウソでしょう。
しかし、鵜が何でも丸呑みするのは本当です。
だから、噛まずに飲み込むことを鵜呑み
人の言葉の真偽などをよく考えず、そのまま受け入れるときも鵜呑みというんですね。

今、日本中が人間関係でぎくしゃくしています。
昔のように誰か一人エライ人がいて、
その人の言うとおりにしていればよかった時代は、辛いことも多かったでしょうが、
自分の頭で考えなくてよかった分、日本人の性分には合っていたのではないでしょうか。
世間様の言うとおりにしていれば、まず間違いはなかったのです。
ところが、多様性の時代と言われる昨今、
それぞれのニーズに合った自己主張が認められるようになりました。
しかし、昔から自分の頭でものを考える習慣のなかった日本人にとって
自己主張はあまりにも難しい課題です。
そこで現れたのが鵜呑み人間です。
鵜呑み人間は、人の意見に共感すると、それが以前から自分の意見であったと思い込みます。
また、いいことを聞くと、自分の環境や状況などはお構いなしに、そのまま受け入れようとします。
逆に、自分がしていたことがあまりよくないことだったなどという情報を耳にすると、
すぐに悩んだり落ち込んだりします。

私もいろいろなことを鵜呑みにして失敗を繰り返してきました。
ドーマン教育を最高の育児法と信じて突き進んでいたのに、
シュタイナー教育に出会って、コロッと寝返ったのが、そのいい証拠です。
100マス計算が子どもの学力UPにいいと聞けば、さっそく我が子に試し、
100マス計算にはこんな問題点があると聞けば、
「それもそうよね〜〜」とすぐにやめてしまう、
なんていうのも鵜呑み人間の得意技です。

最近、子どものわがままに寛容な親が増えてきました。

「叱らない子育てをしよう」という言葉。
「子どもは叱って教育すべきだ」と、
誰もが信じていた時代には、画期的な育児目標でしたが、
今では、当たり前の言葉になりました。
親の気分でヒステリックに叱るのはいけないことです。
環境を整えることで、子どもを叱る回数もぐっと減ります。
そういう意味で、これは大変いい育児目標です。
しかし、「叱らない子育て」という言葉を鵜呑みにし、
まさに言葉通り「叱らない子育て」を実践する人がいます。
子どもがわがままを言っても、ちっとも叱りません。


「ありのままの子どもを受けとめてあげよう!」という言葉もクセモノです。
この言葉を鵜呑みにしたある人は、
子どものわがままを我が子の”ありのままの姿”と受けとめ、
子どもの言うなりになって”子どもを受けとめた”つもりになっています。

子どもが「学校に行きたくない」と言い出したときに
「行きたくないなら、行かなくていいわよ」
と、言ってあげるのは、ありのままを受け止めたことにはなりません。
ありのままを受け止めるのは、
「行きたくないのね」
という一言で充分です。
「行きたくないなら行かなくてもいい」
と、本気で思っているなら、そう言ってもいいでしょうが、
本当は「行ってほしい」と思っているなら、「行かなくていい」と言ってはいけません。


それから、案外、みんなの心に浸透している言葉にこんなのがあります。
「自分で考えて行動できる子
この言葉の発祥地をご存知ですか。
小学校や幼稚園の学校目標です。
この言葉のせいで、今、日本中の大人たちが混乱しています。
この学校目標は「最終的に”自分で考えて行動できる大人”になろうね」
くらいの意味でとらえた方がいいんじゃないかと私は思っています。
幼稚園でこの目標をかかげているところも多いようですが、
大いに問題ありだと思います。
幼児期は人の模倣をする時期であり、
行動しながら考えるという特徴があります。

ところが、この言葉を鵜呑みにすると、
何歳の子どもにも、この目標が当てはまると勘違いしてしまいます。
子どもの栄養状態や生活のリズムを管理するのは大人の役目です。
それなのに、そういうことを一切幼児の自由に任せ
「自分で考えて行動できる子」を育てているつもりになっている人がいます。
これは大きな間違いです。

ファッション雑誌に「自分らしさを表現しよう」と書いてありました。
雑誌の内容を鵜呑みにして、「自分らしさ」を表現しました。
「自分らしさ」を表現する自分とそっくりな人が街にあふれました。

何でも鵜呑みにして、消化不良を起こさないよう、気をつけましょう。

TOPへ 会報一覧へ 前ページへ 次ページへ