インドはすごい その4
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ブダガヤの菩提樹の木の下で私は悟りを開きました。
てえのは、ウソですが、
釈迦が悟りを開いたという菩提樹の木を目の当たりにし、
広い寺院の敷石を歩いていると、私はめまいがしてきたんです。
38度の暑さと湿度90%のべたつきとで、息をするのも苦しくなるほどで、
私はだんだん心身ともにムカムカ、ムカムカ、
世の中で起こるあらゆることに腹が立ってくる状態に陥り出していました。
歩くのもイヤになり、私は寺院の階段にへばりこみました。
どのくらい座っていたでしょうか。
しばらくすると、
黄色い袈裟をまとった外国人僧侶が私の方へ近づいてきて、私に言うのです。
”Do you come from Tibet?”
Tibetかあ。そっかあ。そう見ましたか。
しかし、チベット人てどんな顔してるんだろう。
近くて遠いなあ。
ブダガヤには、チベット寺もあるから、チベット人もくるんだろうなあ。
などと思いつつ、私は、”No, I'm Japanese.”と答えたのでした。
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余談ですが、
私、どこの国へ行っても、そこの国にすぐなじむのか、
台湾に行けば、Chineseと思われるし、韓国へ行けば、韓国語で道聞かれるし、
ま、要するに、私の顔って、違和感なしに中国、韓国系なのでしょうね。
”単一民族日本”を愛する人々に申し上げますが、
日本のほとんどの人が大陸からやってきた外国人で成り立っているんじゃないかと思うのです。
ですから、私は、もっともっと、日本に近い国を大切にしたいなあと思っています。
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さて、私がやたらと怒りっぽくなっているのを見て、夫が、
「釈迦もこの暑さと疲れで頭がぼう然となったんだろうね。」
と、言うのです。そして、さらに、彼は続けました。
「釈迦はこの暑さでめまいを起こして、行き倒れになって、半分死にかけたんだよ。
その時、有体離脱を起こしたんだな。臨死体験ってやつだ。
それで、見たんだよ、あの光とかお花畑とか。
有体離脱してあの光だの花畑だのを見たら、
人間誰だって悟りを開いたような気になるもんだよ。
で、スジャータにミルク粥貰って生き返ったんだ。タブン」
なるほど、あの暑さと疲労感。悟りとは、臨死体験のことだったのか。
ただ、そこにいるだけでむしゃくしゃしてくるあの暑さの中で、
私は妙に納得し、なんだか仏陀の気持ちを悟ったような気になるのでした。
ホテルに戻って、シャワーを浴びようとしたら、
水道が壊れていて水が出ないんだ。
クーラーも壊れていた。
虫が多かったので、ベッドの上に茅(かや)をつり、
ベッドの中で蚊取り線香をたいたら、
見る見るうちに、蚊がパタパタとベッドの上に落ちてきた。
5分で200匹くらいは死んでたよ。
それも、茅の中だけの話。
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しかし、ブダガヤの夜は美しかった。
暑さもなくなり、過ごしやすくなった。
ブダガヤにはビルがない。街灯もほとんどない。
いろんな国の寺がある。
僧侶がいる。僧侶は誰にでも、「ナマステ」と、有り難く合掌してくれる。
夜空は見たこともない満点の星だった。
天の川がはっきり見えた。天高く、夜空に白い帯が流れていた。
私は銀河系にいた。
ちょっと、宇宙人になったような心持ちがした。
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さて、そんなふうにうっとりしていると、夫が夜店でインドのヒーローになっている。
なんだ、なんだ、と行って見ると、インドの若い野次馬たちが夫を取り囲んでいる。
学生時代、当時流行していたTVゲームに夫はハマったことがある。
よって、腕前はたいしたものだった。投じたお金もたいしたものだった。
そのゲーム機を夜店で見つけた。
懐かしさのあまり腕がなり、思わず、椅子にかけてゲームを始めた。
只でさえ、日本人をめずらしそうに眺める人たちだ。
夫のまわりは、たちまち人だかりになった。
インドの健全な青少年一同はゲームのうまい夫に尊敬の念をいだいていた。
気分よく、ホテルの部屋へ戻った。
日本の空港で買った980円の目覚まし時計がなくなっていた。
ベッドのそばに置いたことはふたりともよく覚えていた。
盗まれた。部屋にキーなんかなかった。
私たちは、随分がっかりした。