インドはすごい  その7



カルカッタに着くと、夫は、古巣に戻った喜びで、
自分が昔住んでいたアパートへ直行しました。
5階建ての鉄筋コンクリートの建物で、それほど古びた感じはしません。
エレベーターの前に門番の男がいました。
夫は「あっ、まだいた!」と叫びました。
夫が小学生の頃から、彼はここで門番をしていたのです。そして今も。
彼にいくらか払って、私たちは、そのアパートの中に侵入しました。

映画に出てくるような階段だった。
木製の太い手摺り。木の床。格子扉のエレベーター。
夫が住んでいた部屋のドアの前に立った。
夫は感慨深げにドアを眺めて言った。「なにも変わっていない。」
立派なドアだった。
天井が高い上にドアは日本のドアより数段大きかった。
重たい木のドアだった。
日本人のイメージで言うと、アパート、マンション、というより、高級ホテルだった。

インドのカースト制度は徹底している。
身分によって職業が決まる。仕事はそれ以上も以下もない。
夫のお母さんがインドにいたころ、ゴミの一つも拾えず、苦労した。
間違ってゴミなど拾おうものなら、
「あそこの奥さんはスイパー出なんだ。」
と、床面係の身分と思われてしまう。
家には、食事係(ベアラ)、掃除係(スイーパー)、車の運転手など
それぞれの身分の人がそれぞれの仕事をしにきてくれていた。
だから、夫のお母さんは暇を持て余して
ろうけつ染めやら革細工やら、いろんな趣味に走っていたそうです。


カースト制度っていうのは、みんな知ってる。
社会科で習った。
でも、実際、この目で見ると、実にたまげる。
ドアボーイや料理人や床拭きがいるっていうのは理解できる。
しかし、
身分が高くて、金持ちそうな家族と出くわしたとき、
私は、たまげたね、その家族に。
子どもが食べたお菓子の箱を床に落とした。
親は
「拾ってゴミ箱に捨てろ。」
とは、言わなかった。
足で蹴って子どもが座っている椅子の下に隠したんだ。その父親が。
目の前にゴミ箱があったのに。
私は意見してやりたいくらいだった。
でも、できなかった。

だって、ここはインドだもの。





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