9歳の危機



小4の娘、只今9歳。
3年生のころから、娘は、なにかと親の話にクビをつっこんでくるようになった。
小さいときから、私が夫と話していると、自分も仲間に入りたくて
親の会話をさえぎって自分の話をしてくることはよくあった。
が、9歳に近づいた娘は親の会話に参加してくる。
隣の部屋で遊んでいたはずの娘が突然、
「○○ってなんていう意味?」
「だったら、こうすればいいのに」
なんて口をはさんでくる。
えっ!?君、もしかして、今までの話、全部聞いてたのねっ!!

9歳に近づいてくると、娘は
妹と自分に対する”親の態度の違い”について、いちいち文句をつけてくるようになった。
「おかあさんは、どうして○○(妹)には、こうでしょ〜〜ってやさしい声で言うのに、
アタシには、こうでしょっ!って怖い声でいうの?」
「あのとき、妹にはいいよって言ったのに、私にはどうしてダメっていうの?」
さらに、私の優柔不断な態度を批判することさえある。
「お客さんが来たとき、お母さんはこう言ってたけど、いつも言ってることと違うじゃないかっ!」
そんなときは、単に親の沽券を保つために娘を叱るなんて理不尽なことはできないから、
私は、素直に自分の優柔不断さを認め謝ってしまう。
幸い娘は寛大で、すぐに私を許してくれる。
友達との関係の中で「私はこう思ったのだが、お母さんはどう思う?」
などと大人の意見を求めてくることも増えた。


あるとき、娘は深刻な顔で
「ウソをついたら、本当に地獄に行くかな?」
と私に尋ねてきた。
男女4人でベイブレードをやったとき、仲良しの女の子に
「ベイブレード、楽しいね」といわれて、娘は「うん」と言ってしまったが、
実はベイブレードなんか楽しくなかった。
でも、「楽しくない」とは言えなかった。
それでウソをついた自分は地獄へ落ちるのでは・・・と心配でならなくなったらしいのだ。
「友達が『楽しいね』と言っているときに、『楽しくない』と言ったら、みんなつまらなくなってしまうでしょ。
みんなのことを思って『うん』と言ったんだから、神様は『ウソつきな子だ』とは思わなかったと思うよ。
地獄へは行かないから心配ないよ。」
そんなふうに言ってあげるとほっとしていた。


しばらくすると「地獄なんてホントにあるの?」と聞いてくるようになり、
雷が怖くて両手でヘソを隠している妹に
「雷は静電気なんだよ。
だから、おヘソなんかとられないよ。
ほ〜〜ら、雷〜〜、ベロベロベ〜〜〜」
と、窓の外に向かってヘソを出して見せたりするようになり、
ある日、とうとう「アタシはね、目には見えないものは信じないの!」と言い出した。
う〜〜ん、やってきました、9歳児。
君は今まさに”9歳の危機”まっさかりですね!!


そこいくと6歳の下の子はかわいい。
9歳児が「神様なんかホントにいるの?」と疑り深い不愉快な声で言ったとしても、
疑問の余地なし!と言った表情で「いるよ」という。
6歳の娘にとって、地獄は地面の中だし、神様は空の上だ。
そんなこと当たり前すぎて、それに疑問を感じている姉の悩みが理解できない。
夜寝る前に限って、長女は「恐竜はなぜ絶滅したのか」とか「宇宙の誕生の起源」だとか、
そんな話を私から聞きたがる。話が盛り上がってくると、
「そういう話は怖くなる〜〜」
といって6歳児は必ず泣き出す。
どうもそれらの話には<死>のイメージがあるらしい。
「死にたくないよ〜〜。
だって、アタシが死んだあとに、みんなが楽しいことしてるかもしれないも〜〜〜ん。
 エ〜〜ン・・・」

9歳児というのは<死>のイメージをさまざまな形で感じているらしい。
次女が小学校に入学したばかりのころ、長女は妹のことを大変心配していた。
休み時間のたびに妹がちゃんとやっているか一年の教室まで見に行った。
たとえ自分のプリントが途中であっても・・・・(おいおい、自分のことを心配しろってば)
「学校はイヤだ」と次女がぐずったときは「水曜日はアタシも5時間だから一緒に帰れるよ。」と励ました。

ある昼休み、妹があることで泣いていた。
長女は妹を励ましたあと、図工室の掃除へ行った。
泣いていた妹がかわいそうで、長女は床を掃きながら自分も泣いてしまったそうだ。
とにかく、妹が心配で心配でならなかったらしい。

ある日、親子三人で横断歩道を渡った。
私は先頭をどんどん歩いていて、ふと振り返ると、
長女が次女の手をしっかりつないで歩いていた。
その姿が微笑ましかったのと、長女のやさしい態度に関心したので、
私は長女の顔をみてニッコリ笑ってみせると、長女は言った。
「お母さんが交通事故で死んでもしょうがないけど、
○○(妹)が死んで、アタシ、一人ぼっちになったらイヤだから、
○○の手をつないだの」

ガーーーン
お母さんは死んでも仕方ない!
おお、確かに!

でも、アタシは一人ぼっちになりたくない。
だから、妹に死なれては困るわけですね!!

妹への思いやりの起源は、
なんと
<死>への恐怖だったのですね〜。

娘は「孤独」なんて言葉は知らないけれど、
人知れず「孤独」に震える夜を過ごしたことがあるのかもしれません。
こうして、娘の「9歳の危機」は過ぎていくのです。



☆「9歳の危機」についてさらに詳しく知りたい方はこちらをごらんください。

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