5.梅毒(ワ氏)とは 【分類】 細長い螺旋状で、特有の複雑な運動(移動,長軸を中心とする回転,屈曲の3通りの運動がある)を行う一群のグラム陰性細菌をスピロヘータと総称する。 これらは5つの属に分類されるが,そのうちヒトの病原菌を含むのはボレリア,トレポネーマ,レプスピラの3属であり、 梅毒はトレポネーマ属に分類される。 【症状】 約3週間(10日?30日)の潜伏期ののち感染局所(陰茎,外陰部,膣,子宮頸部,唇など)に初期硬結(無痛性の暗赤色の丘疹でのち潰瘍化して 硬性下疳となる)を生ずるとともに、所属リンパ節の無痛性腫脹をきたす(第1期梅毒)。 これは3〜4週間で自然に治り、しばらく無症状で経過するが、感染後約3ヶ月(8〜20週)頃から全身各所の皮膚や粘膜の発疹、 骨や関節などの病変が現れる。菌が血行性に全身に散布された為である。 これらの病変もまた自然に消退するが、以後再発と治癒をくり返す事もある(第2期梅毒)。 感染後3年を経ると発疹はほとんどみられなくなるが、かわって血管炎、とくに大動脈炎(動脈瘤や心弁膜症をきたす)や 全身各所(皮膚,骨,内蔵)のゴム腫(ゴム様の硬さの大小さまざまな腫瘤)が認められる。 さらに感染後10〜15年経過すると中枢神経が侵され、進行麻痺(麻痺性痴呆ともいい、知能の低下をきたす)や 脊髄癆(知覚神経障害を主症状とする)の状態となる(第3期梅毒)。 治療を全く受けない場合、患者の1/3は自然治癒するが、約1/3は潜伏感染の状態を維持し、約1/3に第3期梅毒の病変が現れるといわれる。 初期硬結や第2期梅毒の病変部には多数のトレポネーマが存在しているので、これらが潰瘍となると伝染の危険がきわめて大きい、 しかし第3期になると病変部のトレポネーマの数は極くわずかであって伝染性はほとんどない。 【感染経路】 病原体は熱,乾燥,消毒薬などにきわめて弱い、したがって伝染も性交,接吻など直接の接触にほぼ限られる(接触感染)。 【治療】 ペニシリンが第一選択薬剤であり、耐性菌も知られていない。 アレルギーのある患者にはエリスロマイシン,テトラサイクリンも用い得る。 トレポネーマの感受性は高く、治療はむしろ容易といってよい。