森林随想  総合学習と森林


郷里の新潟県の田舎に、森林及び環境に関する実践活動の塾をつくり(2005年5月)、手始めに炭焼き活動を開始したところ、市内の小学校の校長先生から一通の手紙をいただいた。森林環境実践塾の活動について、新聞で読んだが、是非小学生に森林の話をして欲しいとのことであった。
当日、校長先生が車で迎えに来てくださった。学校までの所要時間、約20分の中で聞いたところでは、総合学習(正式には総合的学習というのだそうである)の時間を使い、対象は、最初6年生を考えていたが、折角だからということで、3年生以上にしたので宜しくとのことであった。
居住地の東京でも小学生を対象に講話をしたこともあるが、こども相手の場合は、集中の持続時間が短いため工夫が必要である。しかも、3年生から6年生までとなると、知識の差も大きい。 低学年を退屈させない展開を考えている内に学校に到着した。
明治以来、130年ほどの歴史があるという小学校は周囲を水田に囲まれた良好な田園環境にある一方、新幹線の建設工事が進んでおり、この状況も間近に見ることができる。
学校の敷地は広く、一角に、校長先生の言を借りれば学校林が存在する。一望するに、小規模ではあるが樹林を形成しており、これまで生徒が植えた樹木が育っており、学習環境は申し分はないと感じた。
若い父親であるPTAの会長さんも今日は聴講生、講話は先ず、森のはたらきから入り、安定的な水の循環、水質の浄化などに対する森林の機能の話から、炭素循環については、炭酸ガスの吸収と森林の生長の関係、循環過程における木やバイオマスエネルギーの利用、地球温暖化防止についての森のはたらき、続いて森づくりの、いろいろな方法について話を進めた。
講話開始後約、30分経過、予想どおり3年生はそろそろ限界、身体が前後左右に揺れだしたところで、話題を切り替え、最近撮影した中国の砂漠地帯と黄土高原地域における森づくりの写真をパソコンを使って説明したところ、子ども達の身体の揺れはピタリと止まり、目も輝いてきた。
このようにして、約一時間の講話が終わり、質問の時間に入った。
6年生からは、森林は、炭酸ガスを吸収するというが、一方樹木は、生きるために呼吸作用で酸素を吸って炭酸ガスを放出しているが、両者の関係はどのようになっているかとの質問があった。
この質問から、樹木や森林についての学習は、かなり進んでいると感じられた。
終わって、校長室で休んでいたところ、4年生が入ってきて、質問があるという。
校長先生が、質問する場合のマナーについて一言助言をし、さて質問、内容は、木を植えた後の手入れは、水をやるだけでいいんですか、という微笑ましい質問で、しっかり、勉強や体験を積んで立派な人間に育ってもらいたいと思った。
帰りの車の中で校長先生に総合学習について若干の質問をしてみた。
総合学習に割く時間は、一週間に、三時間が目途ということである。三時間の企画を立て実行することが、学校にとって大変な作業であることは話を聞かなくてもわかる。
他校の様子はどうか、創造的なテーマは何か、良いテーマ探しの情景が目に浮かぶ。
ところで今回のテーマは生徒からの希望でしたとの校長先生のお話しに、それは良かったと思わず顔がほころぶ、それにしても知らない人間に手紙を出しての講師依頼は、勇気がいったことでしょうと言ったら、そのとおりですとの答えであった。
実は、最近私が運営している、ホームページの小学生向けのコーナーに、総合学習での宿題ですが答えを教えて欲しいという質問が増加しており、総合学習の実態について知りたいと思っていたところであった。
質問としては、森を守るために小学生ができる活動にはどういうものがあるか、すべての森が無くなったらどうなるか、(全国で)一年に木は何本切られているかなどが多く寄せられている。木は何本伐採されているかというような質問には、誰も答えることはできないと思われるもので、これに時間を費やしてもいわゆる学力の向上には結びつかないであろう。最近のいわゆる学力低下問題から、総合学習の是非論も浮上していると聞く。総合学習は総合的な学力の向上、ひいては総合的な人間力の向上に重きをおくものであるとすれば、どちらが重要かという問題ではなく、質問の出し方にも工夫が必要と思われる。また、小学生にできる活動については、頭で考えるより、学校林などで、実際に活動の体験をすることがいろいろな意味で効果があろう。
実際に講師も引き受けてみて、学校林と呼べる体験可能なスペースがあることが、子ども達の学習意欲の向上にもつながっていると感じられた。
森林の問題は、奥が深く、他分野との関連性も高く、総合学習のテーマには適していると思われる。植林や木の育て方に加え、炭焼きの体験もさせてみたいとの校長先生の言である。
ところで、現在学校林を設置している学校数は、全国の学校の一割程度と見られている。
学校林あるいはこれに類する空間をもっと増やすことによって、子ども達が自分自身で体験できる場が増加し、未来社会で活躍が期待される総合的な学力や人間力を有する人材の育成に大きな効果があろうというものではなかろうか。
                                             (小澤普照 2005年9月21日記)


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