「十九歳の地図」(1979/日/柳町光男) 原作は戦後生まれで初めての芥川賞作家の中上健次。同氏とは同郷で高校の先輩。中上氏原作×柳町氏監督3作品はじめ、中上氏原作の映画化された作品はほとんど全て観ているが、やはりどの作品も忘れ難い。好き嫌い、賛否は当然あって然りだろうが、私の生まれ育った紀州熊野という風土、氏のいうところの隠国の熱くてどろどろとした独特の風を背負った町を知る者としては、この若者の満たされる事のない孤独と絶望からくる心の屈折はよく解る。しかし、中上作品は実に重い。紺野役の蟹江敬三が良い。「どういう具合に生きて行ったら良いのかわからないなぁ」この台詞は本作を象徴している。それから、沖山秀子も良い。この方の唄う「Summer・Time」はヒシヒシと胸に響いてきた記憶がある。確か’77年(この映画の2年前)実際にビルの8階から飛び降りて足に障害が残っているのだが、そのままの役どころとして出演されているのには観ていて胸が痛かった。2度目の鑑賞。
「奴隷の島、消えた人々」(2015/韓/イ・ジスン) 2014年、韓国社内に大きな波紋を投げかけた実在の出来事、新安塩田奴隷事件にヒントを得て製作された社会派ドラマ。世の中には、まだまだ闇に葬り去られている本当に悲惨な事件がいっぱいなんだなぁ。えっ!という展開にはビックリした。
「異端の鳥」(2019/チェコ、スロバキア、ウクライナ/イェジー・コシンスキ) ナチスのホロコーストから逃れるために両親と離れて田舎に疎開した少年が、差別や迫害に抗いながらも強く生き抜く姿を短編形式で綴った心に突き刺さる作品。予告編を観てビビッ!と直感し観に行ったのだが、これ程までにガツンとやられるとは思わなかった。自分よりも常に弱い立場の者を傍に置く事によっての勝手な優越感と安心感。こういった人間の小さなエゴがやがて戦争にも発展していくのだろうと痛感。確かに痛々しい描写もそうだが、コントラストが効いたモノクロ映像は実に美しい。ハーヴェイ・カイテル、バリー・ペッパーも良い。懐かしいところでジュリアン・サンズも出てきた。百聞は一見に如かずですな。 |